前回はリニアレギュレータがどのような性質のもので、どのようなしくみになっており、またどのような種類があるのかを、メリットデメリットも含めてご紹介させていただきました。後編の今回は、リニアレギュレータの選定時に重要となるスペックの意味や、安全に使うために必要となる保護機能などを紹介しようと思います。
リニアレギュレータの選定に当たっては、その製品のスペック確認が欠かせません。ここでは、選定に重要なスペックを一部紹介します。
特性 | 説明 |
入力電圧範囲 | リニアレギュレータが決められた動作を実施するために必要な電圧の最小値と最大値の範囲。 |
出力電圧範囲 | リニアレギュレータが出力できる電圧を示したもの。0.1V刻みで示す製品もあれば、特定の出力電圧から値を選択する場合もある。抵抗外付けタイプは分圧比設定により調整可能な範囲となる。 |
出力電圧精度 | どれくらいの誤差の範囲内で設定した電圧を出力できるかを示す。全温度範囲での規定と、常温での精度を示す場合がある。 |
出力電流 | 一定の条件下において流すことが可能な出力電流を表す。通常、最も厳しい最小の入出力電位差の条件においての最大電流を示す。MIN 値で規定されている場合、最大電流値としての最小値を規定しており、規定よりも小さい電流でも流すことは可能。 |
入出力電圧差 (ドロップアウト電圧) |
条件として提示されている出力電流を供給するために、出力電圧に対してどれだけ入力電圧が高ければよいかを表す。 |
許容損失 | ある電子部品において、「部品の性能を維持できる温度」を超えない最大の消費電力を表す。許容損失(Power Dissipation、PD)は以下の式で求められる。 PD=(Tj-Ta)/θja ・Tj:Junction温度、 |
リップル除去率 | 入力電源ラインに重畳する小さな電圧の揺れ(リップル)が出力側においてどれだけ抑えられるかを表す。単位は(dB)で表記。通常、周波数1kHzのリップル除去率を示す。 |
過渡応答特性 | 電圧や電流の急峻な変動に対し、元の安定状態に戻るまでにかかる時間幅や出力電圧の変動幅を示す。入力側の変動に対しては入力過渡応答、負荷側の変動に対しては負荷過渡応答と呼ばれる。 |
入力安定度 | 入力電圧が変化した時に直流(DC)出力電圧がどの程度変化するかを表す。入力過渡応答は直流(DC)特性とは異なり、時間単位でどのように変化するかを表す。 |
負荷安定度 | 直流(DC)出力負荷電流が変化した時の出力電圧の変化量を表す。 |
負荷過渡応答 | 一定の条件下において、急激な負荷電流の変動に対する出力電圧の変動波形 (オーバーシュートやアンダーシュート) 及び定常状態に戻るまでの復帰時間を表す。出力端子-GND間に接続されるコンデンサの容量値が変動量に影響を与えることがある。 |
出力雑音 | 出力ノイズ特性とも呼ばれる。帰還抵抗をノイズ源とする熱雑音と誤差増幅器をノイズ源とするフリッカノイズの合成成分である。単位はVrms。 |
表1.リニアレギュレータの主要スペック
リニアレギュレータ、特にLDOレギュレータ は出力ドライバトランジスタのオン抵抗が1 Ω以下と非常に低くなり得ます。低オン抵抗の状態で出力が短絡すると、想定外の異常電流(大電流)が流れ、その電力消費による発熱でリニアレギュレータ自身を熱破壊してしまう恐れがあります。このようなリニアレギュレータの破壊を防ぐため、保護機能が複数搭載されているのが一般的です。そのいくつかを簡単に紹介します。
図1.逆流防止回路例
図3.短絡電流制限機能例
図4.突入電流制限機能例
図5.サーマルシャットダウン動作
普段の生活で電子機器がどのような仕組みで動いているのか、ましてやどのように電力が供給されているのか、について考える機会はほとんどないでしょう。しかし、電力供給を担う電源回路は、どのような電子機器にも欠かせない存在です。その中でもリニアレギュレータは、そのクリーンな電力供給でオーディオの音質向上やモニター画面のちらつき解消などシステムの動作性を向上させるのみならず、多数の保護機能を搭載することでシステム全体の安全性も向上させています。目覚ましい技術発展の中、日陰者になりがちなリニアレギュレータでも、日々より良い製品の開発が行われているのです。