今回は、日清紡マイクロデバイスにおける、若手エンジニア主催の社内イベント「ヘッドホンアンプコンテスト」について、コンテストの歴史や目的、各作品と参加者たちの想いもお届けします。
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ヘッドホンアンプはスマホや音楽プレーヤーのような再生機と、ヘッドホンの間に挿入し、音を自分好みの音質にチューンアップさせるデバイスです。
知識があれば、ヘッドホンアンプは個人でも自作することが可能な電子回路です。
アンプを自作する醍醐味の一つは、自分好みの音を目指して、様々なアイデアや技術を盛り込んだ世界に一つだけのアンプを得られるところでしょう。
自作アンプから聞こえる音は、きっと普段の音楽ライフをいっそう豊かにしてくれます。
すでにご存じの方もいるかもしれませんが、日清紡マイクロデバイスでは、若手エンジニア主催の社内イベント「ヘッドホンアンプコンテスト」を行っています。
若手設計者の電子回路学習を目的として、自作のヘッドホンアンプを持ち寄って聴き比べするというものです。
まずは、ヘッドホンアンプコンテストの歴史・目的について、コンテストの企画/運営チームの一人で、電子デバイス事業総括本部 開発本部 SP設計1部の大澤さんにお話を聞いてきました。
ヘッドホンアンプコンテストのようす
― 今日は、ヘッドホンアンプコンテストについて色々とお話を聞かせてください。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
電子デバイス事業総括本部 開発本部 SP設計1部の大澤さん
― ヘッドホンアンプコンテストはいつからスタートしたのですか?
2021年の6月に第1回がスタートしました。第1回は9人の参加者が出品をしてコンテストを行いました。今年で3回目の開催となり、今回の参加者は15人です。
―コンテストのきっかけは何だったのですか?
もともと若手設計者の中でオーディオ好きが多く、そのうち数名で集まる機会があり、それぞれの好みで製作したアンプを展示するようなイベントを企画してみない?という話をしたのがきっかけです。それから色んな人にも声をかけてみると「面白そうですね!」とポジティブな反応があり、企画することにしました。
― なるほど。社内での展示となると上司の方にも相談してから企画を?
はい。趣味の延長で行っていることなので、就業時間外に家でアンプを作ってきて、展示する場所だけ部長のほうにお願いをして、開催に向けて動いてもよいか、上司に相談しました。ちなみに上司もオーディオ好きな方です。
― 初回の準備期間はどれくらいかかったのですか?
色んな人に企画についての連絡をしたのが2021年の1月で、開催時期が2021年の6月だったので、6か月の準備期間を経て初回がスタートしました。
― では次に、コンテストの目的を教えてください。
参加する人それぞれが違った目的を持っていて、その多様性に気を配りながら、僕が意識している目的を紹介させていただきます。
僕は「学習」というところに重きを置いています。学習というと1番はじめに取り掛かるのが本を読むことだと思います。僕は本から得た知識を使って、実際にモノを作って、動作を確認してみることを意識しています。
本に書かれている内容通りの動作を確認できれば良いのですけど、多くの場合想定してないトラブルに遭遇してしまいます。
例えば、「変なノイズがのった…」「発振してしまった…」といった具合ですね。
このようなトラブルに直面し、解決していく流れを繰返すことで、ノウハウを蓄積し、技術者としてのスキルアップにつながると考えております。
― おっしゃる通りですね。
プライベートでの電子工作のときは、こういったトラブルは勘弁してほしいのですけどね(笑)
― あはは。それはそうですね(笑)
― コンテストと聞くと競う場というイメージがありますが、そうではないのですね。
はい、みんなで同じ物を作るという所がいいですね。それぞれが同じ機能のもの(ヘッドホンアンプ)を作って、それで差がでるところが面白くて、そこがこのコンテストの魅力ですね。
― 参加者の皆さんは、もともと電子工作をやられていたのですか?
そうですね。もともと電子工作を趣味でやっていた人もいれば、このコンテストで初挑戦という人もいます。新人社員の中には初の試みとなる人もいますので、凄くいい学びになると思います。
― 開催期間は、毎回何人ぐらいの人が審査にくるのですか?
色んな部署から大体30人くらいの方が審査をしてくれます。社長も聴きにきてくれました。
ー 社長まで来られるのですか、すごいですね。質問は以上です。お忙しい中、ありがとうございました。
ありがとうございました。
コンテストの歴史や目的を知っていただいたところで、第3回コンテスト参加者の各作品と、作品へのこだわりをご紹介します!
アンプの回路構成や使用されている部品の違いが音に反映されるので、同じ「ヘッドホンアンプ」というくくりでも、その音は千差万別です。低音の迫力に重きを置いたものであったり、中高音のきらびやかさが美しいものであったりと、それぞれのアンプの個性が音に現れます。
作品写真 | こだわった部分 | 苦労した部分 | コンテストに参加した感想 |
O.Mさん |
ボリューム部分に、リレーとR-2R回路を使用しました。 | デジタル回路から混入するノイズ対策として、GNDと電源配線、またレイアウトに注意しました。 | 電子回路の知識を広げることが出来てよかった。 |
T.Tさん |
オペアンプ設計業務の知識を生かして、ディスクリートでオペアンプを設計したところ | 筐体の穴あけが大変でした | 皆さんそれぞれの思想でアンプづくりをしていて面白いなと思いました。 |
C.Kさん |
電流帰還型アンプをディスクリートで作った。 | 動作せずデバッグが大変だった。動いても発振がなかなか止まらなかった。 | 最終的になんとか完成させることが出来てよかった。 |
U.Kさん |
D級でどこまでいけるの?という疑問から、ノイズに気を配った実装を頑張りました | スイッチングノイズ対策 | 毎度様々な志向を凝らしたアンプが出展されるのが面白いです。来年も楽しみにしています。 |
N.Yさん |
トランジスタを熱結合し、トランジスタの温度特性を一緒にした部分です。 | 完成当初ノイズが電源から大きく出ていたので、そのノイズを消すのが苦労しました。 | 去年に引き続き二年連続での参加となりました。今年は2週間程度で作成したため、外来ノイズ対策などに時間を割くことができなかったのが少し残念ではありました。ただ、全体的に音もまぁまぁいいくらいの音が出たのでよかったです。 |
Y.Tさん
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音量調整は抵抗切替式アッテネータで行い、音質劣化を抑制しました。電源回路は左右個別に構成し、チャンネルセパレーションに配慮しています。 | 筐体はアルミ板と木の板を重ねていますが、手ノコと電動ドリル、ヤスリによる加工は大変でした。 | 各参加者が様々なアプローチでアンプ製作しており、音だけでなく、構成の違いも見ることができて、毎回楽しいです。 |
K.Mさん |
回路をユニバーサル基板に実装するときに信号線の長さが無駄に長くならないようにしたり、特性の測定をしやすいように配線をすることにこだわりました。 | 音についての測定に慣れていない部分があり、特性を測定するときに何を測定すればよいのかや、測定したデータが正しいのかを判断することに苦労しました。 | どの作品にも個性があり、自分では思いつかないようなアイデアの詰まった作品が多数あり、新しい気づきを得られて参加できてよかったと思います。 |
T.Mさん |
低域を増幅させるローブースト回路 | 初めて作成したため、増幅度とカットオフ周波数の設定が苦労しました | オペアンプやフィルタの働きについて知ることができたので今後の業務に活かせたらいいなと思いました。 |
この記事を読まれている方の中には、これから電子工作を始めたい方や、ヘッドホンアンプの自作に挑戦してみたい、という方もいるのではないでしょうか?
かくいうブログ編集部の私もその一人。習うより慣れろ精神で、今回飛び入りでコンテストに参加してきたのでリポートします!
さて、まずは部品調達からスタート。初めてなのでまず何を準備したらいいのか分からず、事務局の方に相談したところ、「ジャー坊の音楽ラボ」のイベント用に調達されていた"ヘッドホンアンプキット"があるとのことで、そちらを使わせてもらうことに!
ジャー坊の音楽ラボ
日清紡マイクロデバイス・ASKプロジェクト・有明高専・大牟田市で「まちなかシリコンバレー」と称して4者共同のプロジェクトとして実施している、高音質のMUSES試聴、蓄音機、eスポーツ、DTMが体験できる音楽ラボです。(大牟田市イノベーション施設「aurea」内)
※ちなみに、ジャー坊とは。。大牟田市公式キャラクターです。(写真参照)音楽ラボ内のジャー坊
キットは必要な部品が揃っていて、説明書通りに基板の上に部品をはんだ付けしていくだけなので、初心者の私でもわかりやすくて安心でした。
一方、作業の中で1番苦労したのは、はんだ付けです。はんだ付けもほとんどやったことがなかったので、まずは、事務局の方に教えてもらいながらはんだ付けの練習からはじめました。最初は何度もいもはんだになってしまったり、はんだの量が少なくてスカスカになったり・・・、自分でコツをつかむのが難しくて、コツがつかめるまでに時間がかかってしまいました。
そして、なんとかはんだ付けが終わり、特にトラブルもなく完成しました~!!色んな方にサポート、アドバイスをいただきながら完成した自慢の作品です!
編集部が初挑戦したヘッドホンアンプ
出品後、MUSESチームの方が、もとのオペアンプから、当社の高音質オペアンプ「MUSES8820」に変更してくれたのですが、聴き比べてみると、あまりの音の違いに、自然と「わっ…」と声が出てしまうほどでした。MUSESってすごい! あらためてそう思いました。
作成のようす(タイムラプス)
今回、ヘッドホンアンプコンテストに参加してみて、オペアンプの役割をはじめ、電子回路への理解を深めることができてすごく良い経験になりました。
各々がプライベートの時間を使って、主体的に学習、実際に回路を製作することに加え、さらに他作品と並べて比較することで、さまざまな知識やノウハウ、モチベーションなどを得ることが出来る素晴らしいイベントだと思っています。
今回の参加者の中には、すでに次回の構想を考えているという方もいるそうで、次回の開催も楽しみです!
興味をもたれたそこのあなた、入社すれば、参加できますので、ぜひご検討ください!