ボタンをタッチレス化する日清紡マイクロデバイスの光学式タッチレスセンサー「Optton™」の開発秘話をコラムにしました。開発経緯や背景、開発過程での出来事や活動内容など、Optton™がどのようにして誕生したか、お話しします。
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まず初めに、日清紡マイクロデバイスの光学式タッチレスセンサー「NJL5830R」についてご紹介させていただきます。
NJL5830Rは、高出力の赤外LEDと受光ICを独自のパッケージに組み込んだ反射型センサーです。
券売機などの自動販売機やエレベーター等の選択ボタンなど、公共性の高い装置の操作ボタンをタッチレス化することで、感染症対策や、衛生面の向上に貢献する製品です。
外乱光耐性も強く、屋外に設置される装置にもお使いいただけます。検出距離は0 から50 mm をターゲットとしており、用途に合わせて調整が可能です。
日清紡マイクロデバイスでは、この光学式タッチレスセンサーを「Optton™」と名付けています。
2020年、コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大防止対策として、マスクの着用や手の消毒、不要不急の外出規制など、人々の生活様式は大きく変わりました。
その一方で、当社でも感染拡大防止対策の影響で、営業部隊がお客様のもとへの訪問やリサーチができない状況にありました。
こうした状況の中、お客様との会話の中で「感染症対策向けの製品開発ができないだろうか?」「エレベーターや、コンビニのコーヒーマシンのボタンに触れたくない」という話をよく聞くようになった営業部隊。
社員の探求心に火が付き、当時の海外営業部長から商品企画部隊へ「コロナ禍でタッチレスの需要がある。なんとか作れないか?しかも最速で」という声が上がり、自然発生的に「ワイガヤ」が始まりました。
ワイガヤには、営業や商品企画、開発部門から4、5人が集まり検討を重ねました。
それまでの製品の企画開発は、「アイデアの立案→市場調査(顧客訪問)→開発→量産」というふうに組織的に進めていましたが、ワイガヤが始まった当初から、当時の事業企画本部長が加わり、鶴の一声で今ある技術を結集。
社員たちのモチベーションも一層に高まり、アイデアの立案からすぐに開発のフェーズへと、「スピード優先」で開発が進んでいきました。
こうして開発に取り組み始めたのが、2020年7月のこと。
スピード優先で検討を進めた結果、従来品の受光ICとLEDを組み合わせることで、タッチレスセンサーを構成できるのでは?と考え、検証してみることに。
その受光ICは生産終了前の製品でしたが、タイミングよく完成品最終販売後の端数が残っていたこともあり、モックアップでの動作確認を実施。
これがまた、ちゃんと動作することが分かり、試作を実施することとなりました。
受光ICのマスク(回路パターンの原版を形成した透明なガラス)も廃棄前で、新規で検討が必要なものがパッケージのみなど、従来品を再利用したことでスムーズに事が進み、企画会議(開発の承認)~サンプルの提供までは、通常の開発スピードの半分以下である4か月という異例のスピードでした。
試作実施の期間、モックアップをデモ機風に作り直し、それを持ってマーケティングを実施しました。
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・100円ショップのはがきケース ・センサー部のカバーも100円ショップの下敷き(スモーク色) ・ユニバーサル基板+ブレッド―ボード+Arduino UNO ・ボタンスイッチのみ購入品 ・この時のコンセプトはトイレのリモコン ・音を鳴らすために大容量圧電ブザー用ドライバ「NJW1280」を搭載 |
また、開発中の製品でありながらも、Optton™のプロモーションに力を入れ、開発期間から積極的に拡販活動を行っていきました。
Optton™は、光学式タッチレスセンサーのシリーズ名です。
ティザー動画 1回目 |
ティザー動画 2回目 |
ティザー動画 3回目 |
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こうして異例の速さでサンプル提供まで進んだタッチレスセンサーでしたが、まさかの出来事がありました。
そう、東京オリンピックの無観客開催です。
コロナウイルスの感染拡大により開催が1年後ろ倒しとなった東京オリンピック。
自動販売機メーカーや券売機メーカーがタッチレスに前向きに取り組んでいる中、タッチレスセンサーの製品開発も何とか間に合わせなければと各部門で奮闘したものの、まさかの無観客開催・・・。
無観客のため、競技会場にも自動販売機や券売機を設置する必要が無くなり、各メーカーでの検討も終息を迎えたのです。
各メーカー、当社としても一般の方へタッチレスを広く知ってもらえる絶好のチャンスだったのですが、惜しくも遠ざかってしまいました・・・。
また、Optton™の企画開発を進めるうえで苦労した点もあります。それは、複数個並べた選択性のあるスイッチでの誤動作防止です。
タッチレスセンサーの開発を始めてから、男性と女性でボタンスイッチの押し方の違いがある事が分かったのです。
<男性> ボタンスイッチに対して垂直に押す傾向 |
<女性> ボタンスイッチに対して平行に押す傾向 |
ボタンスイッチの押し方に男性と女性で違いが出る理由としては、爪の長さによるものだと思われます。
タッチレスセンサーを取り組む前には男女での押し方の違いなんて、誰も気にしていなかったと思いますが、気になってみると、スマホの操作も女性で爪の長い方は、指の平部分で操作していますよね。
実際にタッチパネルのタッチレス化をしているメーカーさんも困っていたそうです。
不特定多数の方(老若男女)が安心して使用できるタッチレスセンサーの提案に、今でも苦労したり、うまくいかなかったり、大変さは今でも続いています。
さらに、スイッチって子供のころから押すもの(押したらダメ×のスイッチも教わった)で育ってきたので、いざ押さなくても良い(タッチレス)と言われても、押した/押さないを判断しているのは指先の感触であって、感触が無いタッチレスはどこで反応しているのか分かりづらいと思われてしまいます。
現在もタッチレスセンサーを浸透させるための取り組みで苦労している最中です。
当時のPR担当者も「タッチレスセンサーは特に世の中にない製品でしたので、既存のお客様層ではなく、どのような業界にPRしたら良いか悩んでいたと思います。」と当時の状況を語っていました。
光学式タッチレスセンサー ”Optton™”は、こうして無事、2022年4月に生産を開始しました。
発売前のプレスリリースの段階から反響は大きく、宿泊施設や工場、エレベーター関連などのメーカーより直接電話が入りました。
直ぐにサンプル、評価ボードが欲しいなど。
発売後はコロナ禍も終息していき、発売前の勢いはなくなりましたが、潜在的に衛生管理などタッチレスが必要な市場や、新しい市場が見つかり、タッチレスを拡げていく活動を継続しています。
当時の企画担当者へ "Optton™"の開発を経験してみてよかったこと" を尋ねると、
「過去の資産を違う製品として流用するということは、光半導体デバイス製品では初めての試みでした。うまくいかない場合の方が多いはずが、モックアップを作成したところタッチレスセンサーとして動く事が分かり、まずは「やってみる」という事を「成功」という結果で経験できた。」
と語ってくれました。
日清紡マイクロデバイスでは、今後も光学式タッチレスセンサー「Optton™」をシリーズ化してまいります。
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