今回はリアルタイムクロックICのバックアップ電源を切り換える回路のお話です。
ある日、ベテラン社員の先輩Aさんのところに、入社3年目の新人B君が、困った顔してやってきました……
※教えて先輩!シリーズ、の過去の記事はこちら:
第1回: 太陽電池だけでは朝まで動き続けないんです・・
第2回: 携帯機器のスリープ時に電池がどんどん消耗するんです…
教えて先輩!シリーズ 第3回
バックアップ電源切換回路が面倒くさいんです。
先輩! 電源切換回路を作るのが面倒くさいです。
いや、面倒くさいって……仕事だから。
リアルタイムクロック※(RTC)って止められないので、きちんと電源を切り換えないとまずいんですよね。それを作るのが面倒なんです。
※リアルタイムクロック:時計機能を搭載したICであり、文字通り、システム電源が切れてもバックアップ電源で現在の時間を刻み続けることが特徴。RTCと略される。 |
具体的には?
リチウムイオン2次電池のバッテリーパックが主電源です。USBで充電するのですが、主電源が無くなった時に最終手段としてコイン電池でRTCをバックアップする必要があって、切り換えないといけないんです。
基本的な回路じゃないの?「ダイオードOR回路」を使えば良いじゃない。
そうなんですけど。ダイオードって電圧がドロップするし、結構リーク電流があるし、気になるんです。
確かにリアルタイムクロックICを使うってことは消費電流を気にしているわけだよね。それなのにバックアップ電源に切り換えるための回路でリーク電流を出しちゃまずいわなあ。ダイオードって高温になるとリーク電流がどんどん増えちゃうからバックアップ電池には厳しいか……。
それにバッテリーパックの電圧が下がってくるとコイン電池の電圧と逆転しますよね。そうすると、バッテリーパックの容量が残っているのにコイン電池側から給電しちゃうんです。これって意味ないですよね。
それはまずいな。といってもコイン電池の電圧って決まっているからなあ……。
ね。面倒くさいでしょ。実際には電池切れで長時間放置されたりしないと思うので簡単な切換回路でも良いかもしれないですけど……。放置したため時計を再設定するってことはよくあるので、そんなに長時間バックアップする必要もないっていうか……
おいおい、俺の前でそういうことを言うなよ(苦笑)。そういう後ろ向きの妥協は良くないぞ。
そうそう、バッテリーバックアップ切換回路を内蔵したリアルタイムクロックがあるぞ。
ほらぁ!やっぱり、あるじゃないですか。もっと早く教えてくださいよ!
あのなあ。。。まぁいいやw。これは主電源、バックアップ電源の2つを切り換える回路が内蔵されているんだ。ダイオードを使ってバックアップ切換回路を作ると電圧ドロップを考慮しないといけないし、リーク電流も結構あるし面倒だから内蔵してくれているというわけさ。さっきのバックアップ電池との電圧逆転の問題もない。
言ってたとおりじゃないですか!どうやって切り換えてくれるんですか?
リアルタイムクロックの中に電圧検出回路が入っていて電圧が下がったことを検知して切り換えるんだ。下図はその概念図なんだけど、3系統(*)の電源端子を持っているんだよ。*) 2系統の製品もある。
主な使い方はこのうちの2つの電源系を切り換えて使うんだ。例えば、AC電源(ACアダプタ)やUSB給電などの主電源はVCC端子に接続するんだ。一方、バックアップ電源としては、コイン電池のような1次電池はVSB端子に、充電できる2次電池や大容量コンデンサはVDD端子に繋げたりするんだよ。
図2:バッテリーバックアップ切換回路のブロック図
バッテリーパックは2次電池ですよ。VDD端子につなぐのではないのですか?
ここに接続する2次電池はコイン型などのバックアップ用の小容量のものだよ。バッテリーパックは主電源だろ?だからVCC端子に接続するんだ。
電源端子が3つあっても実際には状況に合わせて2つを使うということですね。
そうだね。バックアップ電池が充電できるか、できないかで選ぶんだ。充電できないコイン電池などの場合はVSB端子に接続して使うんだよ。主電源がVCC端子に接続された状態ではVD(ボルテージディテクタ=電圧検出器)がそれを検知してSW1をオンするんだ。同時にSW2はインバータによってオフになるからVSB端子に接続されたコイン電池は消耗しないんだ。
図3-1:コイン電池でのバックアップ例。主電源からの電源供給時(SW1: オン)
バックアップに充電できる小容量の2次電池や大容量コンデンサを使う場合にはVDD端子に接続するんだ。主電源が生きていれば充電できるからね。
図3-2:2次電池や大容量コンデンサでのバックアップ例。主電源からの電源供給時(SW1: オン)
なるほどですね。
逆に、主電源がVCC端子から外されるとVD(ボルテージディテクタ=電圧検出器)がそれを検知してSW1をオフするんだ。同時にSW2はインバータによってオンになるからVSB端子に接続されたコイン電池から電源が供給されるんだよ。これだとコイン電池がムダに消耗しないだろ?
図4-1:コイン電池でのバックアップ例。バックアップ電源からの電源供給時(SW2: オン)
2次電池や大容量コンデンサでバックアップしている場合にはVDD端子に接続された2次電池や大容量コンデンサから電源が供給されるんだよ。このように、VCC端子電圧を検知して自動的に電源を切り換えてくれるんだ。
ちなみに、VSB端子を持っていない2系統製品の場合(例:R2062x)、VCC端子とVDD端子の2つを切り換えて使うことになるんだけど、この図でわかるとおりコイン電池ではなく2次電池や大容量コンデンサでバックアップする用途向けなんだよね。
図4-2:2次電池や大容量コンデンサでのバックアップ例。バックアップ電源からの電源供給時(SW2: オン)
なるほど。完全にお任せで良いんですね。楽です。
まあ、そうだけどw。ダイオードとかの外付け部品も不要だし基板スペースもいらないし、いいことづくしだよ。
使い方は普通のリアルタイムクロックと同じなんですね。
そうだね。だから簡単だよ。
ありがとうございます。サンプルを取寄せて試してみます。
ちなみに、日清紡マイクロデバイス(旧リコー電子デバイス)は古くからずっとリアルタイムクロックを供給し続けている老舗なんだ。
はあ。
まあ、たまには昔話をさせてくれよ。
面倒くさいですねえw。
そもそもRTCって電話用だったんだよね。それも電話交換機とかに使われていたんだ。
市内通話は3分10円とか通話時間に応じて課金しないといけないからね。
電話交換機用に開発されたのですか?
いや、元々はファクシミリ用に開発されたんだよ。ファックスも電話回線を使って通信時間で課金されるからね。
なるほど。
そのリアルタイムクロックが電話交換機に採用されてデファクトスタンダードになったんだよ。
そして、電話交換機に限らず時計表示が必要な機器に採用されていったんだ。ビデオデッキとかね。
今ではスマホとかの携帯電話や電気、ガス、水道などのメーター類とか電子血圧計などのヘルスケア製品とか、多くの機器に使われているよ。
そういう長い技術の蓄積があるって確かにすごいですね。もうちょっと宣伝すれば良いのに。
まあまあ。その頃のRTCってパラレルタイプだったんだけとインターフェースの進化・高速化でシリアルタイプに切り換わったんだ。
それにもちゃんと対応して今では2線式(I2Cバス)、3線式、4線式(SPIバス)とそれぞれのインターフェースを用意しているからどんなマイコンにも接続できるんだよ。
確かに結構な製品数ですよね。
それに、同じインターフェースならソフト互換だから載せ替えも簡単だよ。
なるほど。ありがとうございました。
バックアップ切換回路を搭載した製品のサンプルを入手して試してみます。
バッテリーバックアップ切換回路について詳しくお知りになりたい方はこちら
PDFのホワイトペーパーが開きます。
バッテリーバックアップ切換回路搭載リアルタイムクロック一覧
シリーズ名 インターフェース パッケージ 備考 R2051x 2線式(I2Cバス) QFN023023-16、SSOP16、TSSOP10G R2262x 3線式 QFN0202-18、TSSOP10G 端子名表記が異なります R2061x 3線式 QFN023023-16、SSOP16
*) 2024年3月にR2062xに関する記述を削除しました。(生産終了品のため)また、R2061xのパッケージに誤りがありましたので訂正しました。
*) 2024年2月にコイン電池でバックアップする場合と2次電池や大容量コンデンサでバックアップする場合で図3、図4をそれぞれ2つに分けました。VSB端子とVDD端子の両方でバックアップしても問題はありませんが、現実的にはどちらか一方でバックアップするため誤解を招かないように修正しました。
また、ダイオードOR回路の場合、コイン電池でバックアップすると電池が消耗してしまうケースを追記しました。
あとがき
我々の製品がお役立ちできるような紹介ブログの第3回目です。
本記事で気になったことがあれば何なりとこちらからお問い合わせください。
2024年2月20日 改定