今回はスリープ時に電池を長持ちさせる電源ICのお話です。
ある日、ベテラン社員の先輩Aさんのところに、入社3年目の新人B君が、ちょっと疲れて眠そうな顔してやってきました……
※ 過去のシリーズ記事はこちら:
第1回: 太陽電池だけでは朝まで動き続けないんです・・
教えて先輩!シリーズ 第2回
携帯機器のスリープ時に電池がどんどん消耗するんです…
新人B
A先輩、今開発中の携帯機器の電池が思ったほど長持ちしないんです。スリープ時間が長い機器なんですよ。そこで電流を消費してしまっているような感じなんです。
先輩A
お~B君。なるほど。スリープねえ。止めちゃったらだめなんだよね?
新人B
基本、ずっと電源をオンにして使う機器なのでスリープが必要なんです。当然画面を消灯したりして省エネはするんですが、それでも企画された動作時間をクリアできないんです。
先輩A
確かによくあるパターンだよね。マイコンのスリープ電流は抑えられていると思うけど、マイコン周辺で消費電流を食っているんじゃないの? 例えば電源ICとか?
新人B
LDOレギュレータを使っているのですが、LDOの消費電流って結構大きいんです。
先輩A
なるほどね。電源回路の省エネも重要だよ。ずっと動いているわけだからね。動作時消費電流が 1μAなんてLDOはたくさんあるじゃない?
新人B
そうなんですけど……。低消費電流タイプだと過渡応答特性が悪いですよね。結構オーバーシュートやアンダーシュートが出ちゃうんでいろいろマズいんです。省エネも限界なんです。
先輩A
まあまあ。あきらめるんじゃないよ。例えば、ECO(エコ)機能付きのLDOレギュレータはどうだ?
ECO機能付きのLDOレギュレータ?
新人B
エコ機能?、何ですか、それ?
先輩A
3モード・シフトとも言われている、スタンバイ・スリープ・アクティブの3つのモードがあるLDOレギュレータだよ。これを使えば低消費電流と過渡応答特性を両立できるんじゃないか?
新人B
2個入りのLDOレギュレータですか?
先輩A
いや、そうじゃないんだ。そういう製品もあるかもしれないけど、端子数が増えるからパッケージも大きくなるだろ?コンデンサだって2セット必要だし。これは1つ分の端子・1つ分のパッケージなんだよ。コンデンサだって1セットでいいんだ。つまり、アンプが2個入っているような感じだよ。低消費電流だけど過渡応答特性はちょっと悪いもの、と、過渡応答特性は良いけどそこそこ消費電流が大きい2つのアンプを切り替えるんだ。
このECO機能付きLDOレギュレータは携帯電話の待ち受け時、通話時などでモード切替する際に使われたりしているんだ。こういうスリープ・モードがある機器は結構多いんだよね。
新人B
いい感じです。3つのモードの切り替えはどうするのですか?
先輩A
スタンバイは普通のLDOレギュレータと同じでチップイネーブル端子で制御するんだ。スリープとアクティブの切り替えはECO端子という専用端子でオン/オフを切り替えるんだ。
図1:手動切替タイプのECO機能搭載LDOレギュレータのブロック図
新人B
なるほど、コントロールピンが2つあるわけですね。ただ、電源系統は1つじゃないのでマイコンの制御端子に余裕はないんですよ。
自動切替タイプのECO機能?
先輩A
うーん。それなら自動切替タイプのECO機能もあるぞ。負荷に応じて自動的にスリープとアクティブを切り替えてくれるんだ。
図2:自動切替タイプのECO機能のイメージ
新人B
おぉぉ!負荷電流(出力電流)の大きさで自動的に切り替えてくれるんですね。クルマのマニュアルシフトとオートマチックシフトの違いみたいなものですか。
先輩A
まあね。2段変速だけどw。クルマの変速機もそうだけど手動切替、自動切替、それぞれにメリットとデメリットがあるんだ。
先の手動切替タイプは切替ポイントを自分で決めることができるのがメリットなんだがマイコンに制御端子が必要となるのがデメリットだよ。それに対して自動切替タイプはマイコンの端子は不要だけれど切替ポイントが自由に決められないデメリットがあるんだ。
新人B
なるほど!マニュアルシフトは走る楽しみが得られるけど手と足が疲れる、オートマチックは手と足は楽だけど何か走りがいまいち楽しめないということですね。
先輩A
そっちか!w
ただ、クルマの変速機はCVT(無段変速)に進化しているだろ。ECO機能も進化しているんだよ。
クルマの場合のオートマチックシフトは3段シフトから今や10段シフトまで進化しているよね。要は切替ポイントをたくさん作ってスムーズな加減速をしているわけだ。
だけど、それでは機構が複雑化して高価になってしまう。コンパクトカーに10段変速がついていないのはそういうわけだよ。
それに対してCVTは機構が簡単でコストも安いというメリットがある。だからコンパクトカーや軽自動車にも採用されているんだ。
新人B
先輩。クルマの話になってますよ。
先輩A
おっと、失礼。。。ん?もともと君が変な突っ込みを入れるからだろ……。
さて、ECO機能も進化してCVTのようなタイプがあるんだ。さすがに10段変速はコスト面で難しかったんだろうけどCVTなら可能だったということだよね。シームレスタイプのECO機能というんだ。
シームレスタイプのECO機能?
新人B
シームレスって継ぎ目が無いって意味ですよね。
先輩A
まあ、モードの段差が無いってことじゃないか?
ネーミングはさておき、このタイプは負荷電流に比例して消費電流も増えるんだ。当然だけど負荷過渡応答特性も良くなるんだよ。ただ、クルマもそうだけど変速の上限に達するとそれ以上シフトアップできないよね。シームレスタイプも同じで上限に達すると高速モード固定になるんだ。
図3:シームレスタイプのECO機能のイメージ
新人B
これが一番良いですね!クルマのCVTも進化して燃費向上のための必須機構のようになっていますし。
先輩A
そうだね。実際には下のような特性になるんだけど、IoT機器のようなスリープ時間が非常に長くて消費電流が少ない機器には最適なんだ。
図4:RP122xの消費電流 対 出力電流特性例
新人B
ちょっと低消費電流っぽくないですね……
先輩A
そうではなくて、低消費電流と高速応答性能はトレードオフだろ?いくら低消費電流でも応答性能が悪いと使いものにならないってことだよ。だから、このグラフで出力電流が数mA以上は高速応答モードで動いているんだよ。つまり、自動切替タイプで自動切替する部分を無段階に切り替えているイメージかな。
新人B
う~ん、奥が深いですね。。。50mAでも低消費電流モードで使いたいってケースなど、場合によって選びかえないといけないようです。
先輩A
まあ、そういうケースはあんまり無いんだろうけどね。メーカーの設計者も苦労しているわけさ。
あと、ちょっと方向性は違うんだけど、こういうタイプもあるんだ。今回のケースでは使えないんだけと、手動/自動切替タイプというんだ。マイコンの制御端子は必要なのだけど中身は自動切替タイプなんだ。
手動/自動切替タイプのECO機能?
新人B
ん?どういうことですか?
先輩A
自動切替型か高速応答モードかを専用のAE端子(オートエコ端子)で選択できるんだよ。つまり、高速応答モードに固定して使うことができるんだ。
図5:手動/自動切替タイプのECO機能搭載LDOレギュレータのブロック図
図6:手動/自動切替タイプのECO機能のイメージ
新人B
何の意味があるんですか?
先輩A
負荷電流って変化するだろ?通信したりすれば増えるし、通信が終われば減るし。時にはオーバー/アンダーシュートも起こるわけ。そういう変化で誤ってモードが切り替わらないようにできるメリットがあるんだ。
新人B
なるほど。自動切替型には切替ポイントが自由にならないという他にも課題があったんですね。このタイプなら高速モードに固定しておけばそういう問題が起きないわけか……。考えてますね。
先輩A
さあ、サンプルを取寄せて試してみろよ。まさに、『切り替え』が肝心だぞ。
新人B
上手い!そうですね。どれにしようかな。
ECO機能について詳しくお知りになりたい方はこちら
FAQでECO機能について説明しています。
手動切替タイプのECO機能搭載LDOレギュレータ一覧
シリーズ名 出力電流 入力電圧範囲 出力電圧範囲 備考 R1163x 150mA 2.0V~6.0V 1.5V~5.0V 逆流防止回路、ディスチャージ機能搭載 R1160N 200mA 1.4V~6.0V 0.8V~3.3V R1161N 300mA 1.4V~6.0V 0.8V~3.3V ディスチャージ機能搭載 R1191x 300mA 3.5V~16.0V 2.0V~15.0V 逆流防止回路、サーマルシャットダウン回路搭載、ディスチャージ機能搭載
自動切替タイプのECO機能搭載LDOレギュレータ一覧
シリーズ名 出力電流 入力電圧範囲 出力電圧範囲 備考 RP118x 100mA 1.7V~5.5V 1.2V~3.6V ディスチャージ機能搭載 RP124x 100mA 1.7V~5.5V 1.2V~3.6V ディスチャージ機能搭載、バッテリーモニター機能搭載 R1155x 150mA 3.5V~24.0V 2.5V~12.0V、外部設定 逆流防止回路、サーマルシャットダウン回路搭載 RP202x 200mA 1.4V~5.25V 0.8V~4.0V ソフトスタート回路、ディスチャージ機能搭載 R1510S 300mA 3.5V~36.0V 2.5V~12.0V リセットIC搭載、サーマルシャットダウン回路搭載 R5326K 150mA x2 1.4V~6.0V 0.8V~4.2V 2チャンネル、ディスチャージ機能搭載
シームレスタイプのECO機能搭載LDOレギュレータ一覧
シリーズ名 出力電流 入力電圧範囲 出力電圧範囲 備考 R1116x 150mA 1.8V~6.0V 1.5V~4.0V ディスチャージ機能搭載 RP123x 250mA 1.9V~5.5V 1.2V~4.8V 低ノイズ、突入電流制限回路、サーマルシャットダウン回路搭載、ディスチャージ機能搭載 RP122x 400mA 1.9V~5.5V 1.2~4.8V 低ノイズ、突入電流制限回路、サーマルシャットダウン回路搭載、ディスチャージ機能搭載
手動/自動切替タイプのECO機能搭載LDOレギュレータはこちら
シリーズ名 出力電流 入力電圧範囲 出力電圧範囲 備考 RP201K 150mA 1.4V~5.25V 0.8V~4.0V ディスチャージ機能搭載 RP200x 300mA 1.4V~5.25V 0.8V~4.0V ディスチャージ機能搭載
あとがき
我々の製品がお役立ちできるような紹介ブログの第2回目です。
本記事で気になったことがあれば何なりとこちらからお問い合わせください。
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