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がん治療を支える日清紡マイクロデバイスの電子銃・カソード~開発エンジニアインタビュー~

作成者: 山領 ひとみ|Sep 29, 2025 4:34:49 AM


2025年 9月 29日 公開
今回は、日清紡マイクロデバイスのマイクロ波製品の中から、世界中のがん治療や検査を支えている「電子銃・カソード」についてご紹介します。その機能や特長に加え、開発に携わるエンジニアの働き方ややりがいについてもお届けします。

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【目次】

 

 

日清紡マイクロデバイスのマイクロ波事業 ~世界No.1メーカーの信頼と実績 ~

前回のコラムでは、日清紡マイクロデバイス(旧新日本無線株式会社)の歴史として、かつて富士山頂気象レーダーに使われていたマグネトロンの開発秘話をご紹介しました。今回は、その伝統を受け継ぎつつ発展を続ける「マイクロ波事業の今」に焦点を当ててご紹介します。

レーダーに提供するマグネトロンから始まった当社のマイクロ波事業は、IoT時代の急速な技術革新に応じて、衛星通信、センサー、そして医療分野に拡大しています。長年培ってきたマイクロ波技術と先進の半導体技術を融合し、世界中に幅広い製品を提供しています。

マイクロ波を応用した代表製品には、船舶、気象、航空管制レーダー用マグネトロン、衛星通信(VSAT)コンポーネント、センサーモジュール、そして電子銃・カソードがあります。特に船舶レーダー用マグネトロンは、世界市場で長年トップシェアを維持しています。また、当社は国内唯一、世界でも数少ないVSATコンポーネント専業メーカーであり、世界の海と空の安全・安心を支えています。

そして現在、これらに並び医療やセキュリティーの分野で世界的にシェアを拡大しているのが、今回の主題である「電子銃・カソード」です。

 

日清紡マイクロデバイスのマイクロ波事業

 

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世界中のがん治療や検査を支える「電子銃・カソード」とは?

日清紡マイクロデバイスは、長年の電子管製造で培われた技術を継承、発展させた電子銃・カソードを、さまざまなアプリケーション用の電子放出源として提供しています。電子銃・カソードは、真空中で加熱されたカソードから電子を放出する電子源です。放出された電子のエネルギーを利用して、X線や光を発生させることができます。当社では、富士山頂レーダー用マグネトロンで培った「高出力電流」と「長寿命」を両立させた含浸型カソードに改良を重ねて進化させ、採用しています。電子放出の安定性や長寿命での優位性を強化し、システムメーカー様より高い評価を得ております。

これらの電子銃・カソードは、世界中の以下のような放射線治療機器、セキュリティー用X線スキャン装置等に幅広く利用され、お客様のシステムの品質や性能向上に貢献しています。

  • 放射線治療装置、電子線治療装置器(がん治療用)
  • 貨物・コンテナ用X線スキャン装置(セキュリティー用)
  • 非破壊検査装置(内部画像検査用)
  • マイクロフォーカス検査装置(半導体やバッテリーセルの検査用)
  • アークランプ(高輝度ランプ、紫外線ランプ等用)

 

電子銃・カソード(左が電子銃、右がカソード)

  

 

 

 

開発エンジニアに聞く!電子銃・カソード開発のやりがいと挑戦 ~ 逆境を成長に変えて ~

電子銃・カソード開発では、若手のエンジニアがシミュレーションを駆使して電子の安定放出や長寿命化を追求するとともに、お客様ごとのアプリケーションに合わせた設計を行っています。また、エンジニア自身が海外を含めたお客様であるシステムメーカーのエンジニアと直接コミュニケーションを取り、市場やユーザー様の声を開発に活かす「FIED: Field Information Exploited Design(フィールド情報活用設計)」を実践しています。

 

▼ここからは、実際に電子銃・カソード開発に携わるエンジニアにお話を伺いました!

マイクロ波事業本部 開発部 機構技術課 木村さ

 

― 学生時代はどんなことを学んでいましたか?

木村:大学ではシステム工学を専攻し、電気回路や情報系も少し学んでいました。研究では携帯電話などに興味を持ち、マイクロ波フィルタ*設計をテーマに取り組んでいました。

*必要な信号だけを通して不要なノイズを取り除くフィルタ

― 就職先として当社(旧新日本無線)を選んだ理由は何ですか?

木村:物づくりの会社であること、大学で研究していたマイクロ波関連の仕事ができること、そして出身地である埼玉*に近いこと、この3つの条件で探していました。採用後も人事の方の対応が非常に親切だったことが印象に残っています。

*マイクロ波製品開発の配属先は川越事業所(埼玉県ふじみ野市2-1-1)

― 入社後の配属部署と業務内容は?

木村:入社後から今まで電子銃・カソードの開発を担当しています。大学で学んだ分野とは少し異なりますが、今ではやりがいを持って仕事を続けています。

― 現在の具体的な業務内容を教えてください

木村:電子銃・カソードの図面シミュレーションや製造現場での技術的サポートを行っています。今年からは新入社員のペアリーダー(OJT)も担当しています。電子銃・カソードの設計者は4名と少数精鋭なので、この記事を読んですこしでも学生の方に興味をもってもらえたら嬉しいです。

ペアリーダーとは?
日清紡マイクロデバイスでは、新入社員育成への取り組みとして「ペアリーダー制」を活用しており、配属先では、指導担当者となる「ペアリーダー」の指導の下、1年間の活動を通じて、「専門知識・技能」「仕事の進め方」「社会人としての基本」を習得していきます。
高専卒/大学卒の新入社員に適用

【関連記事】日清紡マイクロデバイス新入社員の働き方 ~新卒2年目社員インタビュー~

 

― やりがいを感じる瞬間は?

木村:私たちの技術や製品でお客様に新しい価値を提供できた時です。電子銃・カソードは単にスイッチをオンにするだけで動く製品ではなく、扱いに関する技術的なサポートが必要になる場合が多いです。そのようなサポートに満足していただけたとき、大きなやりがいを感じます。また、近年は海外案件も増えており、実際に海外出張してシステムメーカーのエンジニアと議論することも刺激になっています。

― 今後の目標や挑戦してみたいことは?

木村:電子銃・カソードの開発を通じてX線を扱う装置の技術発展に貢献したいです。我々の製品はX線を扱う装置、放射線治療器や非破壊検査装置等に使われます。例えば、X線を使うことでメスを使わずに癌細胞を死滅する治療が可能で、人体への負荷を減らすことができます。また、X線は物を透過する能力を持つことから製品を分解せずに中を検査することが可能で、セキュリティーや産業において効率の良い検査ができます。

― 趣味やリフレッシュ方法、休日の過ごし方を教えてください

木村:サイクリングが趣味で、会社の自転車部では部長を務めています。休日は荒川を走ったり、長野県のイベントで松本~白馬までの160kmコースに参加したり、観光地を自転車で走ったりしています。

― 日清紡マイクロデバイスの良いところは?

木村:教育制度が充実しており、新入社員から管理職まで十分なビジネススキルを学ぶ事ができます。2022年に事業統合してから、新入社員研修やペアリーダー制などの新人育成のサポートがさらに手厚くなりました。

― 学生のみなさんへメッセージをお願いします

木村:自分のやりたい事で無い事や苦手に思っている事でも自分の可能性を信じて挑戦してみましょう。全力で挑むことで何とかなったり、やってみたら意外に苦手でないことに気づくこともあります。就職活動も同じで、選択肢を広げることで自分の新たな可能性が見えてくるかもしれません。

― 以上でインタビューは終わりです。ありがとうございました。

 

 

おわりに

「電子銃・カソード」というと少し専門的に感じられるかもしれませんが、がん治療や検査を通じて実は私たちの生活に密接に関わっている技術です。
今回のインタビューでは、その最前線で活躍するエンジニアの挑戦ややりがいをお伝えしました。この記事をきっかけに、当社のマイクロ波事業やエンジニアの挑戦に少しでも興味を持っていただけたら幸いです!

 

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