今回はちょっと変わったリセットIC(ウィンドウボルテージディテクタ)のお話です。
ある日、ベテラン社員の先輩Aさんのところに、入社3年目の新人B君が、困った顔してやってきました……
※教えて先輩!シリーズ、の過去の記事はこちら:
第1回: 太陽電池だけでは朝まで動き続けないんです・・
第2回: 携帯機器のスリープ時に電池がどんどん消耗するんです…
第3回: バックアップ電源切換回路が面倒くさいんです。
第4回:AEC-Q100ってなんですか?
第5回:サンプルをこっそり手にいれたいんです。
教えて先輩!シリーズ 第6回
先輩!変なリセットICを見つけました。これってどうやって使うのですか?
? 変なって……
これです。上下監視とかウィンドウタイプのボルテージディテクタとか言っていますけど、意味あるんでしょうか。
機能安全?を考慮したICみたいなのですが。。。。
図1:電圧降下でも電圧上昇でもリセット信号"L"を出力
ああ、これね。電圧の低下だけでなく上昇でもリセットをかけるんだよ。
理屈はわかるんですが、電圧の上昇ってオーバーシュートですか?それってOVPで対策できるんじゃないでしょうか。なぜボルテージディテクタが必要なんでしょう?
※OVP: Over Voltage Protectionの略。出力端子の過電圧を検知して出力を停止する保護機能のこと。 |
いや、オーバーシュートって一瞬だからリセットICでは検知できないかもね。それよりも何らかの異常による過電圧を検知するのが目的なんだよ。だから、これは電源ICの後ろにつける(出力電圧を検知する)んだ。電源ICの前の電源部に異常があったら電源ICのOVPで保護できるけど、その電源IC自体に異常があったら保護できないだろ?
図2:R3152Nの基本回路例
安定した電源を供給する役割の電源ICが壊れた時のために監視するということですか?
まあ、そうだよね。
電源ICにパワーグッド出力があれば電源ICの異常も検知できるかもしれないですよね?
それも1つの方法だと思うね。ただ、パワーグッドって検出精度が良くなかったりするし、そもそも電源IC自体が壊れていたらパワーグッド信号って出力されるのかって問題もあるよね。
それは……ちょっと心配し過ぎでは?
そんなことないよ。
設計思想というのもあるけど、絶対に故障してはいけない機器ってあるよね。
うーん。「絶対はない」と教わりましたが。
例えば、クルマを運転中に制御不能になったら大変だよね。
確かに。
最近のクルマは電装品の塊と言われていて数多くの半導体部品や電子部品が使われているよね。EV自動車なんか、走る電化製品って言われてるよね。それが故障して自動車事故が起こっては困るというわけさ。
フェールセーフ設計とか多重設計とかいろいろ工夫されていると聞きました。
そのとおりで、部品が壊れることを想定して、壊れても危なくない方向に壊れるように設計するとか、同じ回路を複数用意して1つが壊れても他のバックアップ回路が動くようになっていたりするんだ。
なるほど。さっきの上下監視のリセットICは電源ICの出力異常でマイコンが誤動作する前にマイコンをリセットするわけですね。そうするとマイコンが暴走したりしないという意味ではフェールセーフ設計になりますね。
そういうこと。だから、このリセットICはクルマ用なんだろうね。
クルマ以外でも製造ラインの工作機械とかにも使えそうです。
! そうそう。よくわかっているじゃないか。
このように、機能安全とは、機器が故障しないように作るのではなく、部品が壊れることを前提として、壊れた時の安全を機能で確保することなんだ。
日清紡マイクロデバイス(旧リコー電子デバイス)の機能安全への取り組みはこちら
ちなみに、このリセットICの電源は電源ICの出力ではなく、車の場合で言うとバッテリー直結でもらうんだよ。
?
つまり、電源ICから電源をもらっていたらその電源ICが壊れたらアウトだよね。そうではなくて自らの電源は直接電源からもらっていて、電源ICの出力電圧監視は専用のSENSE端子で行っているんだよ。安全設計というわけさ。
図3:SENSE端子による監視機能の分離
なるほど。考えられているわけですね。それ以前にCMOSなのにカーバッテリーに対応しているなんてスゴイですね。CMOS電源ICってもはや携帯機器向けってわけではないんですよね。
そして、……
まだあるんですか(笑)。
……。端子配置にも気を配っているみたいだね。何らかの理由で隣の端子とショートしても致命的な不具合にならないように工夫しているみたいだ。
電源端子とグランド端子が反対側にありますね。
図4:R3152Nの端子配置図
いや、僕が言いたいのはそっちじゃなくて……w。
まあ、電源端子とグランド端子を離すのは基本だけど、電源端子とSENSE端子が反対側にあるだろ。電源端子とSENSE端子がショートして後ろのマイコンとかまで壊してしまわないように工夫してあるんだよ。さらに、加えて、リセットIC自身が壊れないようにVDD端子の隣のCD端子も50Vまで耐圧を上げてあるんだ。
なるほど。遅延用コンデンサ端子なんですけどね。
端子位置に気を配るってことは中のチップの設計段階から考えているわけだよね。機能安全って、最初から計画的に行う必要があるんだ。これって当り前なんだけど簡単なことではなくて実は難しいんだよね。いろいろ経験を積んだからできることなんだ。
なるほど。よくわかりました。ありがとうございました。
機能安全を考慮した上下監視ウィンドウボルテージディテクタ搭載製品一覧
シリーズ名 製品説明 R3152N 入力最大42V ウィンドウボルテージディテクタ R3154N 診断機能付き 入力最大42V ウィンドウボルテージディテクタ R3500S 診断機能付き 入力最大42V 4ch ウィンドウボルテージディテクタ R5116x 入力最大42V ウィンドウボルテージディテクタ付き ボルテージレギュレータ
あとがき
我々の製品がお役立ちできるような紹介ブログの第6回目です。
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