今回はエナジーハーベスト(環境発電)実証評価用の環境センサーボードがバージョンアップしたお話です。
ある日、ベテラン社員の先輩Aさんが入社3年目の新人B君のところにやってきました。
教えて先輩!シリーズ 第12回
太陽電池だけで動くIoTエッジ端末評価ボードって知ってる?
~環境センサーボードがバージョンアップ~
おーい、B君。日清紡マイクロデバイスから新しい環境センサーボートが発売されたぞ!
はい?
この前、屋内光太陽電池で朝まで動作し続けないって困っていただろ?使えるんじゃないか?
あれはアドバイスいただいて解決したので大丈夫です!
いや……興味ないの?アンテナを張って最新情報を入手するって大事だぞ。今はネットで簡単に情報が得られるんだからな。昔はネットが無かったから資料室にこもって調べたり、図書館まで出向いたり大変だったんだから。調べていくと、これも足りない、あれも足りないとなるから何度も資料室に行ったりしたもんだ……
はいはい。わかりました。
ただ、私はRIOT-001って知らないんですよ。前回はディスクリートで組んでしまったので。
そうだっけ?じゃあ、まずはRIOT-001の説明から始めようか。
………………。
うん? まず、RIOT-001は環境センサーボードと言ってIoTエッジ端末を模した評価ボードなんだよ。温度、湿度、気圧、照度のセンサを搭載していて、その測定データと2次電池の電圧をBLE搭載マイコンモジュールからAndroid端末(タブレット等)に送信できるんだよ。
電源は太陽電池なんだ。推奨されているのはパナソニックソーラーアモルトン株式会社のアモルファスシリコン太陽電池の屋内照度仕様品(AM-18xx)だよ(開放電圧が5.0Vの屋内照度仕様であれば他社の太陽電池パネルでも使用可能)。
ただ、太陽電池だけだと充電にちょっと時間がかかるから、補助的にコイン電池を使って充電時間を短縮することもできるんだ。もちろん、使わなくても大丈夫なのでコイン電池ボード RIOT-C01はオプション(別売)なんだ。
要はエナジーハーベスト(環境発電)でエッジ端末を動かし続けることができるかを評価できるわけですね。
そうそう。環境センサーボードと言ってもセンサではなくてIoTエッジ端末向けの優れた電源ICがいくつも搭載されていることがポイントなんだよ。
具体的にはエナジーハーベスト蓄電用の降圧DC/DCコンバータ R1800、超低消費電流の昇降圧DC/DCコンバータ RP604、そして、バッテリーモニタ機能搭載の超低消費電流のLDOレギュレータ RP124の3つを搭載しているんだよ。太陽電池は表面写真の左端のPV(+)、PV(-)端子に接続、コイン電池ボード RIOT-C01は裏面の白いコネクタに接続するんだ。コイン電池はCR2032を使うんだよ。
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図2-5: RIOT-C01にCR2032を装着
それで、どう新しくなったんですか?
環境センサーボードRIOT-001にはユーザーからいくつか要望があったらしいんだ。このボードはエナジーハーベストが実際にできることを確認することが目的のものだったんだけど、「おー、エナジーハーベストってホントにできるんだ!」となると、あれも試したい、これも試したい、ってなるんだよね。
まあ、そうですよね。これまでは太陽電池だけで動作し続けることができる機器ってソーラー腕時計ぐらいでしたもんね。IoTエッジ端末に使える!ってなると具体的な案件化が目標になりますから。
顧客の要望が多かったのは間欠動作タイミングの変更だったらしい。
はい?
RIOT-001って5秒間隔でBLE(Bluetooth Low Energy)通信でタブレット等にデータを送るんだけど、それをもっと長くしたり、短くしたいってことなんだよ。例えば、実際のIoTエッジ端末ってそんなに頻繁にデータを送っていない場合もあるからね。
確かにそれは自分で変更できないですからね。日清紡マイクロデバイスに依頼すれば変更してもらえたりしないんですか?
まあ、出来なくはないんだろうけど面倒くさいよね。ここぞとばかりに「何に使うんですか?」「どんなふうに使うんですか?」とか根掘り葉掘り聞かれそうだし。
そうですよね。営業さんに突っ込まれるのは私も苦手です。
新しいRIOT-002はそれをユーザーが自分で変更できるようになったんだよ。後で説明するけど専用アプリでさっきの間欠動作のタイミングなどの設定値の書き換えができるんだ。
なるほど。1時間に1回だけBLE通信する、なんてことも可能になるわけですね。
そうだね。さらに、リアルタイムクロックICのR2221を搭載しているので毎週火曜日だけ動作させるとか、毎日8:00~17:00だけ動作させる、とかもできるみたいだ。
でも、RTCを搭載って太陽電池でホントに駆動できるんですか?
できるから発売するんだろ(笑)?RIOT-002は搭載デバイスも新しくなっているんだよ。エナジーハーベスト蓄電用の降圧DC/DCコンバータはR1800から出力電圧や最大電力点電圧を外部設定可能でパワーグッド機能を追加したR1801へとバージョンアップしているし、2次電池の後ろの超低消費電流の昇降圧DC/DCコンバータもRP604からRP605に変わっている。これはRP604にバッテリーモニタ機能を追加した新製品なんだよ。
どちらも機能強化版ですよね。
まだあるぞ(笑)。温度・湿度・気圧・照度のセンサに加えて3軸加速度センサも搭載しているし、それらセンサの電源のために超低消費電流のLDOレギュレータRP118も搭載しているんだ。RIOT-001にはバッテリーモニタ用にバッテリーモニタ機能付きの超低消費電流のLDOレギュレータ RP124が搭載されていたから、これは少しだけ消費電流が少なくなるかな。
うー。でもトータルすれば消費電流が増えることしか考えられないです。
もちろん、これだけの機能を太陽電池だけで動かすことができるわけじゃない。ちゃんと2次電池を搭載しているんだ。
そうでした。2次電池に蓄電するんですよね。
そうそう。あくまで目安らしいけど、2次電池をフル充電すると約1日程度動作することが可能らしい。
そのフル充電にどれくらいの時間が必要なんでしょうね。1週間かかります、っていうんじゃ話にならないですけど。
キビシイねぇ。でもRIOT-002Aに搭載されている2次電池はRIOT-001のものと同じだよ。つまり、同程度の時間で蓄電可能だと思うよ。(詳しくは後述)
そうなんですね。じゃあ、問題ないか。
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それに、RIOT-002には3つのバージョンがあるんだよ。
どういう違いがあるんですか?
違いは搭載している2次電池なんだよ。まず、RIOT-002Aはニチコン株式会社製のSLBシリーズを搭載している。これはRIOT-001と同じ容量が0.35mAhのものなんだ。次に、RIOT-002Bは株式会社村田製作所製のCT04120を搭載している。容量は3mAhと大きいよね。そして、最後はRIOT-002Cで日本ガイシ株式会社製のEnerCera®-ETシリーズを搭載している。容量はさらに大きくて4mAhなんだ。
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いろいろな2次電池を試せるわけですね。2次電池の充電電圧って異なるわけですからR1801もそれぞれ別のものが搭載されている……、そうか、R1801って出力電圧が外部設定できるから設定用端子で調整しているんですね。ところで、RIOT-002Cって2次電池が載っていないような気がするのですが……
そうだね。EnerCera®-ETシリーズってEnerCera Coinと言ってコイン電池型なんだ。だから、シリンダー型と違ってボード上に実装スペースが確保できなかったので別ボードのRIOT2 EnerCera® Boardで提供されるんだ。もちろん、RIOT-002Cに同梱されているんだよ。
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安心しました。2枚のボード合わせてRIOT-002Cなんですね。
そのとおり!そして、RIOT-001と同様にコイン電池ボードのRIOT-C02も用意されているよ。RIOT-002はR1801のパワーグッド信号を受けて後段のRP605が動作する仕様なので、まずは2次電池への蓄電が必要なんだよ。だけど明るさによっては結構時間がかかるのでオプションのコイン電池ボードはあった方がよいかな。
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図5-3: RIOT-C02にCR2032を装着
RIOT-001用のRIOT-C01は使えないんですか?
まあね。実はRIOT-002シリーズはRIOT-001に比べて小型化されているんだよ。だからコネクタも小さくなってRIOT-C01が使えないってわけなんだ。
部品点数が増えたのに小さくなったんですね。RIOT-001の中心部分が2.5×2.5cmで6.25㎠なのに対してRIOT-002は2.25×2.25cmで5.07㎠なので約20%のサイズダウンですか。頑張りましたね~。
あれ? RIOT-002CってコネクタがRIOT2 EnerCera® Boardに占有されているからコイン電池ボードが使えないんじゃないですか?
いやいや、そんなことはないよ。確かにコネクタがRIOT2 EnerCera® Boardに占有されているんだけど、RIOT-002Cに接続する場合はRIOT-C02のサイドに出ている2ピンコネクタ2つで接続するんだ。このRIOT-002Cへの対応もRIOT-C02が作られた理由の1つなんだ。RIOT-C01には2ピンコネクタがないからね。
図6: RIOT-002CにRIOT-C02を接続したところ
さっきもちょっと話したけど、新しいRIOT-002はAndroid端末からいろいろ制御できるんだ。
具体的にはどんなことができるんですか?
RIoT002_SettingというAndroidアプリを使って制御するらしいけど、さっき話したとおりRTCがらみのセッティングとか、各センサのON/OFF、要望の多かったセンシングの間隔=BLE通信の頻度なんかを設定できるらしいね。
やっぱり、Android OSのみの対応なんでしょうか?
そうみたいね。まあ、Android端末(タブレット等)って手軽に購入できるから評価用っていう意味ではそれで良いんじゃないかな。
そうですか。iPad派の私としてはちょっと残念ですけど仕方ないですね。でも、これでエナジーハーベストの実用化って結構進みそうです。
まあ、新しい技術って立ち上げに時間がかかるのは仕方ないよね。いろいろ検証が必要だから。
でも、IoTエッジ端末って用途は無限にあるはずだよ。電池交換せずに動き続けるってことは電源の配線が要らなくなるわけだから設置の自由度は上がるしね。屋内光に特化した仕様だから薄暗くても蓄電可能だし。
最近、IoTエッジ端末を農業で使うっていうケースを聞きますけど太陽光ではダメなんですか?
屋外光用の太陽電池は発電電力が大きい事が特長なんだけど、RIOTシリーズに搭載されているR18xxシリーズは、屋内光用の太陽電池で微小発電向けに作られたものなのでちょっと合わないんだ。RIOTシリーズ・R18xxシリーズは、微小な発電エネルギーを効率良く取り出すエナジーハーベスティングがコンセプトとなっているので、屋内光用の太陽電池が適しているってこと。
それと、屋内光用の太陽電池といってもセル数がポイントで、RIOTシリーズ搭載のR1800やR1801は、多セル向け(推奨:AM-18xx@8セル)なんだ。1~2セルなどの少セルの場合は日清紡マイクロデバイスには昇圧タイプのR1810があるので、相談してみるといいかも。
そうなんですね。でも、屋内光用って評価しやすいし、ちょっと試してみたいですね。オンライン販売店でカンタンに買えるみたいです。デバイス単品の評価ボードも販売中みたいです。先輩、購入の承認いただけますか?
いいけど……ちゃんと評価するんだよね?
はい!ありがとうございます!
RIOT-002シリーズについて詳しくお知りになりたい方はこちら。紹介ページが開きます
RIOT-001 についてはこちら。紹介ページが開きます。
RIOTシリーズ についてはこちら。紹介ページが開きます。
IoT機器向け製品について詳しくお知りになりたい方はこちら。特集ページが開きます。
RIOT-002シリーズはオンライン販売店で購入できます。
(ロゴをクリックすると各社の販売ページが開きます)
RIOT-001もオンライン販売店で購入できます。
(ロゴをクリックすると各社の販売ページが開きます)
あとがき
我々の製品がお役立ちできるような紹介ブログの第12回目です。
本記事で気になったことがあれば何なりとお問い合わせください。
※ 過去の「教えて先輩!」シリーズ記事はこちら:
第1回: 太陽電池だけでは朝まで動き続けないんです・・
第2回: 携帯機器のスリープ時に電池がどんどん消耗するんです…
第3回: バックアップ電源切換回路が面倒くさいんです。
第4回:AEC-Q100ってなんですか?
第5回:サンプルをこっそり手にいれたいんです。
第6回:こんなリセットICってどうやって使うのですか?(機能安全って?)
第7回:携帯機器がフリーズしても、リセットできないんです~!
第8回:ボタンを触らずに操作できる(ボタンのタッチレス化)ってどうやってるの?
第9回:スイッチICって何かメリットがあるんですか?
第10回:半導体の品質保証って何ですか?(バスタブカーブって?)
第11回:そもそもフリッカー(チラつき)を出さなきゃ良いんじゃない?~ひと味ちがうリニア調光のススメ~