今回は半導体の品質保証のお話です。
ある日、ベテラン社員の先輩Cさんのところに、入社2年目の新人Dさんが、困った顔してやってきました……
教えて先輩!シリーズ 第10回
半導体の品質保証って何ですか?
新人D
C先輩、半導体の品質保証って何ですか?
この前、AEC-Q100について教えていただいたのですが、他にもいろいろあるんですよね?この際、きっちり勉強しておこうと思うんです。
先輩C
……。まあ、勉強するのは良いことだけど、教える方は大変なのよね……。
新人D
そう言わずに教えてくださいよ。先輩!
先輩C
そうね。品質保証は品質保証部門によって実施されているんだけど、結構奥が深い世界なのよ。今回は簡単なところを説明しようか。
新人D
はい。お願いします。
信頼性?
先輩C
品質保証は製品の信頼性を高めることが仕事なんだけど「信頼性」って何のことかわかる?
新人D
信頼性って製品が壊れずに動くことですか?
先輩C
そうね。信頼性っていうのは製品がきちんと動作する期待値のことを言うのよ。だけど、製品ってやっぱり故障してしまうことがあるので「いかに故障をしない製品にするか」のためにメーカは日々努力しているの。故障しにくい製品のことを信頼性が高い製品と言うのよ。
その製品の故障というのは3つあって、初期故障、偶発故障、摩耗故障に分類されるの。まあ、言葉からイメージできると思うけど、初期故障は製品に元々なんらかの不具合があって比較的早い時期に壊れてしまうこと、摩耗故障は製品を使っているうちに部品がすり減って壊れてしまうこと、まあ、製品の寿命ね。偶発故障はその間の故障ってことなのよ。これは品質保証では当たり前の考え方でバスタブカーブって言われているの。湯舟の断面みたいな形だからなんだけど、正式な呼び方は故障率曲線よ。
バスタブカーブ?
図1: バスタブカーブ(故障率曲線)
先輩C
半導体部品はちょっと特別で、メカニカルな動作をしないから壊れる要素がほとんどないの。だから「基本的に」壊れないと言われているのよ。そして、偶発故障期間が非常に長いため機器の寿命を上回るの。
余談だけど、これは基板にきちんと実装できたらって前提の話だから間違えないでね。何年もストックしていた半導体部品には当てはまらないから。ちょっとだけ言うと、長期間在庫された半導体部品は端子が錆びたりするのよ。まあ、鉄みたいに真っ赤にならないから気づかないかもしれないけど、錆びる=酸化するだから、端子に薄い酸化膜が張ってしまうのよ。そうすると半田の乗りが悪くなって基板に正しく実装できなかったりするわけ。
図2: 半導体のバスタブカーブ(故障率曲線)
新人D
でも壊れないって、ありえないですよね(笑)。
先輩C
まあね(苦笑)。偶発故障はゼロではないよね。そして、この図にもあるように初期故障はあるの。それを取り除くためにスクリーニングを行うのよ。そして、機器の寿命より前に半導体部品が摩耗故障期間に入ってしまわないことを確認するために信頼性試験を行うというわけ。
初期故障期間に起こりうる不具合をあぶりだして取り除くのがスクリーニング
新人D
具体的にはどうするのですか?
先輩C
まず、スクリーニングだけど、出荷検査の際に全数検査するの。実際に初期故障期間に相当する時間だけ動作させるのは無理だから厳しい環境で加速試験を行うのよ。そのストレスの加速によって、ごく短時間で潜在的な不良を顕在化させて、ふるい落とすの。そうすることで、市場での初期故障をゼロに近づけることができるわけ。もちろん、出荷検査では電気的特性も全数検査しているのよ。
新人D
なるほど。市場に出てすぐに壊れそうな部品を出荷検査時にわざと壊してしまって取り除くわけですね。でも、そんなストレスをかけちゃうと合格品であっても中古品になっちゃいませんか?
先輩C
確かに新品ではなくなるよね。でも、ほんの短時間だし、さっき言ったとおり半導体部品は偶発故障期間がとても長い製品だから時間的には微々たるものなのよ。「もしかしたら壊れるかもしれない新品」と「ほとんど壊れないほんのちょっと試験したほぼ新品」とどっちがいい?
新人D
そうですね。ほとんど壊れない「ほぼ新品」がいいです。安心できますよね(笑)。
先輩C
スクリーニングを行うとさっきのバスタブカーブはこんな感じになるの。壊れにくい感じがするでしょ。信頼性が高いって感じでしょ。スゴイでしょ。
図3: スクリーニング後の半導体のバスタブカーブ(故障率曲線)
新人D
はいはい。ホントですね。(笑)
摩耗故障期間に入らないことを確認するのが信頼性試験
先輩C
もう1つ信頼性試験についても説明しようか。これは機器の寿命より前に部品が壊れないかを確認する試験のことなんだけど、機器の寿命は普通は10年ぐらいを想定しているのよ。
新人D
まあ、10年動けば十分ですよね。
先輩C
そう?「10年って短い」って言うかと思ったわ。ただ、10年というのは製品の累積動作時間なので実際の10年のフル動作ではないのよ。普通の製品は24時間、365日動かしたりしないよね?エアコンだってテレビだって1日24時間電源を入れてないでしょ?そうすると製品の累積動作時間の10年間というのは実際の10年よりかなり長い時間に相当するということ。これはJEDEC規格とかAEC-Q100規格などに規定されていて、高温とか高湿、高圧、高電圧などの環境で規定されている時間をかけて加速試験することになっているのよ。もちろん、この期間/時間や加速条件は製品/規格によって異なるんだけどね。
新人D
なるほど。でも、スクリーニングと違って1,000時間とかの信頼性試験をかけるってことはさすがに中古品になっちゃいますよね。
先輩C
そうね。だから、信頼性試験はバスタブカーブの摩耗故障が起きないことを確認するために全数試験ではなく抜き取り試験なのよ。だから、実際の市場で摩耗故障は発生しないのよ。
新人D
そういうデータって公開されていないんですか?
先輩C
ちゃんと推定故障率って公開されているから。
新人D
スクリーニングと信頼性試験で製品の信頼性が確保されているというわけですね。
先輩C
もちろん、出荷検査できちんとスペックが出ているかを確認しているっていう前提でよ。
新人D
はい。よくわかりました。ありがとうございました。
日清紡マイクロデバイスの「品質と信頼性」について知りたい方はこちらをご覧ください。
日清紡マイクロデバイスの電子デバイス製品の信頼性試験に関してはこちらをご覧ください。
あとがき
我々の製品がお役立ちできるような紹介ブログの第10回目です。
本記事で気になったことがあれば何なりとこちらからお問い合わせください。
※ 過去の「教えて先輩!」シリーズ記事はこちら:
第1回: 太陽電池だけでは朝まで動き続けないんです・・
第2回: 携帯機器のスリープ時に電池がどんどん消耗するんです…
第3回: バックアップ電源切換回路が面倒くさいんです。
第4回:AEC-Q100ってなんですか?
第5回:サンプルをこっそり手にいれたいんです。
第6回:こんなリセットICってどうやって使うのですか?(機能安全って?)
第7回:携帯機器がフリーズしても、リセットできないんです~!
第8回:ボタンを触らずに操作できる(ボタンのタッチレス化)ってどうやってるの?
第9回:スイッチICって何かメリットがあるんですか?
品質保証・信頼性関連の記事はこちら
第4回:AEC-Q100ってなんですか?
第13回:半導体部品の上手な取り外し方 ~やさしく取り外さないと後が大変!~
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