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半導体部品の上手な取り外し方 ~やさしく取り外さないと後が大変!~

作成者: おしえて先輩委員会|Dec 1, 2022 4:37:31 AM

今回はプリント基板から半導体を取り外すお話です

ある日、入社2年目の新人Dさんのところに、ベテラン社員の先輩Cさんがやってきました……

 

 

教えて先輩!シリーズ 第13回

半導体部品の上手な取り外し方
やさしく取り外さないと後が大変!

 

先輩C
今日はちょっと趣向を変えて半導体部品の取り外し方について話そうと思うの。

新人D
どうしたんですか?

先輩C
ちょっと解析チームから聞いたんだけど、半導体部品の不具合解析で困ったことになっているんだって。

新人D
困ったこと?

半導体部品が壊れた状態で戻ってくる?

先輩C
半導体部品が壊れた状態で戻ってくるのよ。

新人D
そりゃ、不具合品なんだから壊れていますよね?

先輩C
いや、そうじゃなくて、プリント基板から取り外すときに壊しているみたいなのよ。

新人D
取り外すときに壊すって、ニッパーとかペンチで引きちぎったりしているわけではないですよね?

先輩C
それはそうなんだけど、半田ごてを使って外しているみたいなの。

新人D
それが普通だと思いますけど。

先輩C
……、やっぱりそう? それが一般常識なのね……

新人D
違うんですか?

先輩C
半導体部品の実装方法は知っているわよね?

新人D
はい。普通はリフローとかで取り付けますよね。

先輩C
そうね。もうちょっと詳しく説明すると、まず半導体部品が吸湿している場合にはベークして水分を飛ばすのね。そして、リフローを行うんだけど、ゆっくり温度を上げていってピーク温度時間はわずかなのよ。これはリフロープロファイルとして公開されているの。この意味はわかる?

図1: 当社 鉛フリー対応リフロープロファイル

新人D
そうするものだと思っていましたけど。

半導体部品の中の水分の影響を極力小さくするため

先輩C
これは半導体部品の中の水分の影響を極力小さくするための処理なのよ。半導体ってプラスチックモールド樹脂で固められているけどモールド樹脂そのものや端子の付け根の部分とかから水分が中に入るのよ。

新人D
あー。確か、MSLとか言いますよね。吸湿性レベルでしたっけ?

先輩C
そうそう。Moisture Sensitivity Level ね。これは半導体部品の水分の取り込みやすさを示す指標なの。数字が大きくなるほど吸湿性が高くなるわけ。基本的に大きなパッケージの方がMSLが大きくなるのね。これは簡易版だけどMSLの表よ。

表1: MSL (吸湿性レベル)

*1) フロアーライフ: 室内放置時間。実装前に電子部品を防湿袋などから出して放置可能な時間。条件は室温30℃以下、湿度60%以下。

*2) 無制限の条件: 室温30℃以下、湿度85%以下。

新人D
はい。それが何か。

先輩C
なぜ、吸湿性を気にするかというと、水は100℃で沸騰して水蒸気になるよね。リフローの温度って何℃ぐらいかしら。

新人D
250℃ぐらいでしょうか。

先輩C
そうね。その状態で半導体部品の中に水分が残っていて沸騰したらどうなるかしら。

新人D
水蒸気になって逃げていくんじゃないですか?

水は沸騰して水蒸気になると体積が1,700倍に!

先輩C
でも、プラスチックモールド樹脂で固められているんだから水蒸気の逃げ道ってないよね。水から水蒸気になるって体積が 1,700倍になるってことなの。それだけ大量の水蒸気が逃げ場を失ったらどうなる?プラスチック樹脂にひび(クラック)が入ったり、最悪の場合はポップコーンみたいにパチンとはじけてしまうのよ。

写真1: パッケージ・クラック事例

新人D
あー。パッケージ・クラックってそうやってできるのですね。だから、そうならないようにリフロープロファイルがあるわけか。ゆっくり温度を上げていくことでベークと同じようにパッケージ内の水分を少しずつ飛ばしているわけですね。

先輩C
そうそう。でも、フロワーライフは守らなといけないのよ。リフロープロファイルはベークの代わりにはならないから。ベーキングは数時間かけてやったりするものだからね。
で、半田ごてって何℃かしら?

新人D
えーっと、100℃は超えていますよね。たぶん。

先輩C
いやいや、350℃もあったりするのよ。リフロープロファイルのピークが250℃ぐらいだから結構高いよね。

新人D
はい。ちょっと高過ぎますね。

先輩C
冷めることを想定して高めになっているらしんだけど、この半田ごてでプリント基板から半導体部品を外すとどうなると思う?

新人D
プリント基板に実装されている間も吸湿するわけですから、いきなり高温の半田ごてをあてるとパッケージにクラックが入るんですか?

先輩C
そう。そういう場合もあるし、端子とモールド樹脂の間に少し隙間が出来たりするわけ。そこから水蒸気が逃げるのよね。

新人D
なるほど。そうすると……

先輩C
パッケージに大きなクラックが入ればさすがに気付くけど、端子の間に少し隙間が出来たりしても気づかないよね。そこから水分や何らかの化学物質が入るとICチップが腐食するのよ。

腐食していないICパッド 腐食したICパッド

写真2: パッド腐食事例 (丸いのはボンディングワイヤー)

パッケージ・クラックは腐食の原因に

新人D
腐食って錆びるんですか?

先輩C
そうね。もちろん、普通の水分でも腐食するけど、化学物質の方がやっかいなのよ。よくあるのは塩分ね。海に近いと潮風で塩分が入り込んで腐食するわけ。温泉地とかもいろいろガスが出てるでしょ。寒ければ結露して水分が入り込むし、いろいろあるわけ。

新人D
でも、プリント基板から取り外して半導体メーカーに送るのって長くても1週間~10日ぐらいしかかからないですよね。そんな短期間で腐食するんですか?

先輩C
そうなの。問題なのは、本来の不具合の腐食なのか、半導体製品を取り外した後の腐食なのかが判別できないことなの。

新人D
死亡推定時刻、みたいな感じで前なのか後なのか特定はできないんですか?

先輩C
…….

新人D
すみません。区別がつかないんですね。

先輩C
そうすると、品質保証部門としては「腐食による破壊。プリント基板実装時に熱によってできた微細なクラックからの水分の侵入で腐食したと思われる」というような不良解析報告をしてしまうわけ。本来は別に不具合原因があるかもしれないのに。それが解明できないと半導体メーカーとお客様双方にとって解決とは言えないのよ。再発する可能性が高いでしょ。

新人D
なるほど。実際には基板から外した時に壊れているのにですね。

先輩C
くり返すけど、真の原因が解明できないと半導体メーカーとお客様双方にとって解決とは言えないのよ。再発する可能性が高いでしょ。
それに、パッケージにクラックが入るほどだからモールド樹脂にかなりの応力がかかるわけね。応力っていうのはモールド樹脂を変形させるような力のこと。そうするとICチップとリードフレームを繋いでいるボンディングワイヤーにダメージが生じたりもするのよ。

写真3: ボンディングワイヤーが外れている事例(腐食もしている)

パッケージ・クラックでボンディングワイヤーにもダメージ

新人D
そうすると「ワイヤー断線」という解析報告書になるんですね。

先輩C
いやいや、さすがに、それはないでしょ。不良モードが違うから。でも、そこで「あれっ?」ってことになるわけ。動作がおかしい、と解析依頼が来ているのにワイヤーが外れていたらそもそも動かないわけだから。

新人D
なるほどです。でも、そもそもどうやって半導体部品をプリント基板から外せばよいのですか?ネットで検索しても「半田ごてで外せ」って出てきますけど。

先輩C
そうねえ。ネットの情報は取り外した半導体製品を評価・解析する前提で書かれていないから、壊れても良いということでしょ。壊さないように外すにはやっぱりリフローよね。

できることならリフローで外して欲しい!

新人D
そうか、付けるのと同じ要領で外せばよいのですね。ゆっくり温めて冷える前に外せば良いわけですね。でも、リフロー装置って普通にあるものですか?

先輩C
リフロー実装できるんだからあると思うけど、実装ラインに持っていって外すというわけにはいかないわよね。設計の実験室には手ごろな大きさのものがあるとは思うんだけど……ない場合はリフロープロファイルと同じような感じでIC全体をゆっくり温めてパッケージ内の水分をうまく飛ばして欲しいの。

新人D
具体的な方法を知りたいですね。

先輩C

そうねえ。具体的には、CSPやBGAなどの下部電極ICを取り外す際に使用する簡易型の局所加熱機を使って欲しいわね。ドライヤーみたいな形で熱風が出るものでヒートガンとも呼ばれるものよ。もちろん、いきなり高温の熱風をICパッケージに当てないように温度制御ができるものが良いのよ。パッケージ表面温度を200℃以内にできれば吸湿によるICへのダメージを最小限に抑えることができるからね。わかっていると思うけど、パッケージ表面温度が200℃でも、半田は溶けるからICの取り外しはできるのよ。

新人D
わかりました。ありがとうございました。

先輩C
もうちょっとだけ詳しく説明するとね。

新人D
はい?

先輩C
半田ごての何がいけないかというとね。ICパッケージ全体をゆっくり温めるのではなくて、リード(端子)部分だけを350℃ぐらいで急速に熱することになるわけ。そうすると、金属のリードから金属のリードフレーム、金属のボンディングワイヤー、ICチップと一気に高熱が伝わるのよ。でもプラスチックモールドはまだ温まっていないでしょ。それって結構な温度差なのね。

新人D
はい。そうすると?

先輩C
そして、局所的に急激にプラスチックモールド樹脂が過熱されるので水分が水蒸気化して体積が急激に増えるために樹脂が膨張し、応力も発生し、パッケージ・クラックやボンディングワイヤーの剥離につながりかねないのよね。

図2: パッケージ・クラック、ボンディングワイヤー剥離のメカニズム

先輩C
さらに、半田ごてによるメカニカルなストレスも追加されるので熱ストレスと合わさって半導体部品へのダメージになるのよ。

新人D
なるほど。もう少し分かった気がします。

先輩C
ちなみに、半導体/基板実装業界で使用されている半田材はSn3Ag0.5Cuが主体で融点は217℃~220℃程度なのね。200℃だと溶けないと思うかもしれないけど、パッケージ樹脂温度が200℃前後でも端子リード面は金属だから熱伝導率が高いので200℃以上になっているのよ。だから問題なく半田は溶けるのよ。

新人D
はい。ありがとうございました。

 

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あとがき
我々の製品がお役立ちできるような紹介ブログの第 13回目です。
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  第2回: 携帯機器のスリープ時に電池がどんどん消耗するんです…
  第3回: バックアップ電源切換回路が面倒くさいんです。
  第4回:AEC-Q100ってなんですか?
  第5回:サンプルをこっそり手にいれたいんです。
  第6回:こんなリセットICってどうやって使うのですか?(機能安全って?)
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