今回は機器をリセットさせるためのICのお話です。
ある日、ベテラン社員の先輩Aさんのところに、入社3年目の新人B君が、困った顔してやってきました……
教えて先輩!シリーズ 第7回
携帯機器がフリーズしても、リセットできないんです~!
A先輩~助けて~
いま、防水の携帯機器の設計をしているんですが、機器がフリーズした時に強制再起動するための穴(リセットホール)を開けちゃダメなんだそうです。
お~B君。そりゃそうだろう!
小さな穴だし、1つしか開いていなければ水も入らない、と思うかもしれないけど水圧をなめちゃだめだからね。
だけど、絶対フリーズしない機器ってないですよね。やっぱり機器の強制再起動って必要ですよ。
電源を落とせばいいんじゃないか?昔は電池を引っこ抜いたりしたぞ(笑)。
そんな乱暴な(笑)。今の携帯機器の充電池は薄型化のためにポリマー電池になっているので外せないんですよ。それにフリーズして電源ボタンすら効かなくなったらどうしようもないじゃないですか。
おいおい。どんな設計をしているんだ(苦笑)。
今はリセットピンを穴に挿すんじゃなくてボタンの長押しで強制再起動するんだよ。例えば、電源ボタンを長押ししたら強制再起動がかかるようにすることができるんだ。
なるほど。例えば、2秒間電源ボタンを押し続けたら強制再起動がかかるようにできるわけですね。
そうそう。
でも、2秒間ぐらい押しちゃうことってありますよね。意図しないで強制再起動がかかったら困りますよね。
2秒って結構長いぞ。そんなに押し続けないだろ。まあ、カバンの中で何かの拍子に押されても困るよね。据え置き機器ならそんなことはないけど携帯機器の場合は予期せぬ強制再起動はしたくないよね。
そうです。なので、何か良い解決策ありませんか?
この、”ボタン長押しで強制再起動する機能” というのはリセットタイマICで実現できるんだよ。
そして、ワン・ボタン、ツー・ボタンの両方に対応しているんだ。
リセットタイマIC?
へ~そんな便利なものがあるのですか!
ん?ワン・ボタン、ツー・ボタン対応ってどういうことですか?
ワン・ボタンの場合は電源ボタン1つを長押しみたいな方法だよね。
ツー・ボタンの場合は、文字通り、2つのボタン、例えば、電源ボタンともう1つ別のボタンを同時に長押しすることで強制再起動をかけることができるんだ。
2つ同時に長押ししないといけないので、強制再起動の誤作動も防ぐことができるし、1つのボタンの長押しを別の動作にも割り振ることができるのがメリットなんだよ。
なるほど。それは便利ですね。
いろいろなバージョンがあって遅延時間(ボタンを何秒押し続けるとリセットがかかるか)を選べるんだ。10秒間とかも選べるよ。
そうそう、リセットタイマICにはシッピングモードがついているものもあるよ。
シッピングモード?
携帯機器って工場から出荷されてお店に並んで売れるまでって結構な日数がかかる場合があるよね。でも、その間もリーク電流によって電池は消耗しているんだよ。
そうですよね。新品でいきなりバッテリーアラートが出たりすることがあったらビックリです。
さすがにそれはオーバーだろう(苦笑)。だけど、製品によっては船便で送られたりするし、問屋などで在庫されたりと流通経路が長いものもあるよね。だから、バッテリーの消耗を極力少なくする必要があるんだ。そのためのシッピングモードなんだよ。
要は機器の電源を落としちゃうんですよね。
いやいや。輸送中はもともと電源オフだって(笑)。電源がオフなのにリーク電流でバッテリーが消耗してしまうのが問題なんだよ。バッテリーからの回路にスイッチを入れてオフしてしまうイメージかな。そうすれば機器の電子回路で余分な電流が消費されることが極力なくなるからね。
でも、そうすると電源をオンしても時計とか全部設定し直しですよね。
いや、そんなことはないって。最低限動作している回路があるからね。リアルタイムクロックなんかはその1つだよ。そういう回路があるからバッテリーが消耗するんだよ。消費電流の大きいマイコンなどをスリープではなく完全に止めてしまうというのがポイントかな。マイコンの消費電流ってスリープ時でも結構あるからね。
リセットタイマIC R3201の使用例
実はリチウムイオンバッテリー搭載機器の航空機による輸送にはルールがあるんだよ。
ルール?
このルールというか規制は改正されたりしているし、航空会社それぞれのルールもあるから細かいな内容は航空会社に確認して欲しいんだけど、リチウムイオン2次電池は単体だと旅客機で貨物輸送できず、貨物機を使うことになっているんだよ。そして、以前はリチウムイオン2次電池搭載機器の場合は貨物機での輸送時でもバッテリー残量を定格値の30%以下にしなければならなかったんだ。
それは、厳しいですね。
リチウムイオン充電池(2次電池)って結構なエネルギー密度なんだよね。製造時の欠陥や強い物理的な衝撃で破損すると発火したりするんだよ。航空機で輸送する場合は特に危ないよね。だから、そういうルールができたんだ。実際に事故も起こっているし。バッテリーメーカは当然だけどリチウムイオン2次電池を搭載した機器のメーカも気を付けていると思うよ。
なるほど。すると規制うんぬんもそうですけどフル充電状態で輸送しない方が安全ってことですよね。
そうだね。実際には含まれるリチウムの総量やリチウムイオン2次電池の容量、個数とかで規制があるみたいだけどね。空の上で火災が起きたら大変だよ。それに、リチウムイオン2次電池ってフル充電より80%ぐらいまでしか充電しない方が長持ちするしね。
あ、そうですね。20%~80%の間で使うと長持ちするって聞きました。とすると、そもそもフル充電されていないからリーク電流によるバッテリーの消耗を極力減らさないといけないってことか。
そういえば、新型のデジタルカメラを買った人が「充電池がカラで届いた!充電しないで出荷するなんてセコい!」って怒っていましたが、それも安全対策の一環かもしれないですね。これは文句を言われたカメラメーカさんがかわいそうです。
そうねえ。実際のところはわからないけどね。
まあ、デジタルカメラの場合はバッテリーが外せるけど、今のノートパソコンとかスマートフォンとかは外せないよね。そうなると製品の輸送時に気を使わないといけないから大変なんだ。そういう意味でもシッピングモードが必要なんだよ。
念のために言っておくと、このリセットタイマICだけでシッピングモードが構成できるわけではなくて上の図の(2)にもあるとおりPch. MOSFETが必要なんだ。このリセットタイマICがマイコンからのシッピングモード・コマンドを受け取ってそのPch. MOSFETをオフすることでバッテリーからのマイコンへの電源供給をストップするというわけだからね。
よくわかりました。ありがとうございました。
リセットタイマIC一覧(簡易版)
シリーズ名 製品名 リセット信号遅延時間 備考 R3200x R3200x001x 7.5秒:DSR=GND
11.25秒:DSR=VDDR3200x002x 7.5秒 R3200L052B 10秒 R3200L053B 10秒 R3200L064B 3秒 R3201L R3201L001A 8秒 シッピングモード機能 R3201L002A 10秒 R3201L003A 12秒 R3201L004A 16秒
あとがき
我々の製品がお役立ちできるような紹介ブログの第7回目です。
本記事で気になったことがあれば何なりとこちらからお問い合わせください。
※ 過去の「教えて先輩!」シリーズ記事はこちら:
第1回: 太陽電池だけでは朝まで動き続けないんです・・
第2回: 携帯機器のスリープ時に電池がどんどん消耗するんです…
第3回: バックアップ電源切換回路が面倒くさいんです。
第4回:AEC-Q100ってなんですか?
第5回:サンプルをこっそり手にいれたいんです。
第6回:こんなリセットICってどうやって使うのですか?(機能安全って?)