日常生活を送る中で、「リニアレギュレータ」という言葉を聞く機会はめったにないと思います。ですが、読者の皆様が今まさにこのページを開くために使っているPCやスマートフォンを始め、身の回りの電化製品にはごく普通に使われている電子部品の一つです。
リニアレギュレータとは?
リニアレギュレータは入力電圧の変動や機能デバイスの消費電流の変化、温度、時間の影響などを受けることなく一定の電圧を出力できる装置の一種です。電圧レギュレータやボルテージレギュレータとも呼ばれます。同じくレギュレータの一種であるスイッチングレギュレータと比較すると、電力エネルギーを熱に変換し放出しながら電圧を制御するので、電力の変換効率は劣ります。一方で、その出力は非常に穏やかでノイズが少なく、必要部品もシンプルに構成できるのが特長です。
近年は電子機器の低消費電力化が求められるようになったこともあり、大出力電源を構成する際には変換効率に優れるスイッチング方式を採用するのが主流になっています。しかし、ノイズ要求や実装面積要求の厳しい機能デバイスへの電源を構築する際には、構成がシンプルでノイズが少ないリニアレギュレータにもまだまだ活躍場面があります。
なお、可変抵抗となるトランジスタの挿入の仕方によって、シリーズ方式(入力と負荷の間に直列に挿入)とシャント方式(負荷と並列になるように挿入)の2種類が存在します。しかし、シャント方式は用途が限られるので、当記事ではシリーズ方式のみに焦点を当ててみていきます。なお、ここから、少し動作の論理の説明になるため、回路設計の専門用語も使っていきますね。
リニアレギュレータのしくみ
最もシンプルなリニアレギュレータは、入力端子、出力端子、GND端子の3つの端子を備えた三端子レギュレータと呼ばれるものです。そこにチップの動作そのもののオンオフを制御するチップイネーブル(CE)端子などが加えられるようになり、現在は4端子以上の製品も少なくありません。
今度はその中身を見てみましょう。一般的に、リニアレギュレータは可変抵抗・帰還抵抗・基準電圧源・誤差増幅器(エラーアンプ)の4つの部品で負帰還制御回路を構成しています。この回路に、位相補償などを担うコンデンサを入力側と出力側に一つずつ加えるだけでリニアレギュレータの出来上がりです。ね、簡単でしょう?
図1. リニアレギュレータの回路構成図
上述の4つの部品のうち、入力された電圧を一定の出力電圧に変換する役割を担うのは可変抵抗です。可変抵抗とはその名の通り「抵抗値を変えられる抵抗器」のことです。負帰還制御回路から出力電圧のフィードバックを受けて抵抗値を微調整することで、リニアレギュレータの出力電圧を一定に保ちます。
以下の図はリニアレギュレータの出力特性を示しています。このように入力された電圧を線形(リニア)に出力することから、リニアレギュレータと呼ばれています。
図2. リニアレギュレータの出力特性
その電圧変換の原理は、中学校理科の教科書でおなじみの「オームの法則」に基づいており、次のような計算式で抵抗値や消費電力を計算することができます。
抵抗値=電圧÷電流 電圧=電流×抵抗値
オームの法則
リニアレギュレータのメリット・デメリット
さて、中学校の頃の実験を思い出してほしいのですが、電流を流した後の抵抗器は熱を発します。この熱は、「入力された電力の一部は熱として消費したよ!」ということを意味しています。
実は、リニアレギュレータは不要な電力分を熱として消費するので、変換効率が低くなってしまいやすいというデメリットがあります。特に、入力電圧と出力電圧の差(入出力電圧差)が大きければ大きいほど、その傾向は顕著になります。また、発熱が度を越えると電子機器の故障につながってしまいますので、ICに許容されるパッケージの損失である許容損失を考慮した熱設計が大変重要になります。
図3. 3V出力レギュレータに5Vと10Vを入力した場合の損失
低い変換効率というデメリットがある一方で、もちろんメリットもあります。上述の回路構成がシンプルで実装面積を抑えやすい点に加え、出力する電圧に余計な周波数成分(ノイズ)が少ないのがリニアレギュレータのメリットです。そのため、オーディオのようなノイズに敏感なデバイスの場合、高い変換効率だけどノイズの多いスイッチングレギュレータからの電圧を、リニアレギュレータでノイズを取り除く電源構成がよく用いられます。
リニアレギュレータの種類
リニアレギュレータはその出力ドライバの構成やグラウンドへの回路構成によって以下な分類が可能です。リニアレギュレータが用いられるようになった当初はNPNトランジスタを複数用いたダーリントン型が標準的でした。しかし、ダーリントン型リニアレギュレータには、入力される電圧と出力される電圧の差であるドロップアウト電圧の下限値が大きかったり、抵抗値そのものが大きかったり、また自己を動作させるために必要な電力(電流)が大きかったり(つまり必ず放出しないといけない捨て電力が大きい)、熱による電力損失が大きかったりと、電圧変換の効率において様々な難点がありました。
技術が発展し、携帯電話やノートパソコンのような持ち運び可能な電池駆動の端末が登場すると、それらの端末が長時間動作できるように、低消費かつ高効率で電圧を変換できるリニアレギュレータが求められるようになりました。そこでメジャーになってきたのが、入力電圧と出力電圧の差(入出力電圧差)を小さくすることで電力の損失を抑えられる低ドロップアウト電圧レギュレータ、すなわちLDOレギュレータです。
近年、低消費電力要求はさらに強まっており、低消費電力を実現できるCMOS LDOレギュレータの活躍場面はますます広がっています。
リニアレギュレータの分類 |
回路図 |
メリット |
デメリット |
標準型 |
複数のNPNトランジスタで出力ドライバを構成(NPNダーリントン構成とも) |
グラウンドにリークする電流が少ない 大電流に適している 最大入力電圧が大きい |
ドロップアウト電圧が2~3Vと大きい 効率が悪い |
標準LDO |
PNPトランジスタ構成 |
標準型に比べてドロップアウト電圧が小さい(0.5~0.8V程度) |
グラウンドに流れる電流が多い 安定動作に出力コンデンサが必要 |
CMOS LDO |
NチャネルとPチャネル型のCMOSトランジスタを用い、出力ドライバと差動アンプ、基準電圧源など主要回路を構成。 |
最大ドロップアウト電圧が小さい(0.1V~0.4V程度), 自己消費電流が非常に少ない。 結果として、変換効率も良くできる。 |
出力インピーダンスが高いため、高速応答が不得意だったが、技術の進歩で今となってはあまりない。 |
表1. リニアレギュレータの分類
次回へつづく
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