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電源ICとコンデンサの基礎知識(前編)

電源ICとコンデンサの基礎知識

電源ICを選ぶ際に検討しなけれならない受動部品、あなたはどうやって選んでますか? 一見するとどれも同じように見えますが、実は奥が深いんです。

とくに、コンデンサとコイルの選び方によっては、電源ICの基本動作の性能や静的DC特性、動的AC特性が大きく変わってきます
そこで、世界的な受動部品の専門メーカ、太陽誘電株式会社の高橋様に、間違いのない受動部品の選び方について詳しくお聞きしました。

★★★

インタビュアー:日清紡マイクロデバイス(旧リコー電子デバイス) 神馬
- こんにちは、電源IC製品企画⋆の神馬と申します。
本日は電源ICにとっては重要となる受動部品選びについてディスカッションをするために太陽誘電株式会社様の東京オフィスにお邪魔しました。
このような機会をいただきましてありがとうございます。

太陽誘電 高橋様 (以下: 高橋様): 
どういたしまして。こちらこそよろしくお願いします。

- まずは簡単な自己紹介をお願いできますでしょうか。

高橋様:  太陽誘電 営業企画 高橋です。これまで販売(営業・セールスエンジニア)や商品企画やMLCCの新商品プロジェクトの業務を担当してきました。宜しくお願いいたします。

- 今回は電源ICと切っても切れない受動部品の王様であるセラミックコンデンサの役割、種類、特徴についてご教授頂ければ助かります。

高橋様:  承知しました。今日は太陽誘電の主力製品であるコンデンサ、とくにセラミックコンデンサについてご説明しましょう。

* フィールドアプリケーションエンジニア(Field Application Engineer):製品の技術説明やお客様製品で使用する際の技術サポート、ソリューションに最適な製品選びの提案を行う業務
太陽誘電株式会社 様 のご紹介TAIYO_YUDEN_red
太陽誘電は、皆様の身近にある各種電子機器に使用されるコンデンサ、インダクタ、モジュール、モバイル通信用デバイス(FBAR/SAW)など電子部品の開発製造を通じて、より豊かな生活を作り出す手助けをしている企業です。

 

★★★

コンデンサの役割とは ?

- コンデンサですが、一般的な役割については設計者の方もご存じだとは思いますが、電源ICとの関係を追求しようとすると、意外と奥が深いですよね。

高橋様:  おっしゃる通りです。 図 1 の回路図を見てください。よく見る回路記号ですが、 左から、DCDCコンバータは“ IC① ”、出力インダクタ は“ L① ”、出力コンデンサ は“ C① ”、また負荷の入力インダクタは “ L② ”、入力コンデンサとなる“C② ” 、最後に、負荷デバイスは“ IC② ” となります。

図1 電源ICとインダクタとコンデンサ回路図図1  電源ICとインダクタとコンデンサ回路図
 

高橋様:  電気は電源ICを通して、左から右の負荷デバイスに流れていくのですが、この役割を簡単にイメージにしたのが図2です。

図1と図2を照らし合わせてご説明します。DCDCコンバータ:IC①は「ダム」 、出力インダクタ :L①は「パイプ」 、出力コンデンサ:C①は「貯水池」 、電気は「水」にたとえます。ダムから流れてきた「水」が必要な分だけパイプを通り、貯水池に貯められるイメージです。また負荷の入力インダクタ:L② は「用水路」、入力コンデンサとなる:C②は 「田んぼ」 、最後に、負荷デバイス:IC②は「作物」 となります。

川から田んぼに直接水を引き入れると、流れを抑制できず水量を一定に保つことは難しいですよね。水を安定させるために「パイプ」(出力インダクタ:L①)に水を通して整流化し、「貯水池」(出力コンデンサ:C①)に貯水して不純物(ノイズ)を沈殿(GNDへ落とす)させるイメージです。
※インダクタの役割:入力された電気エネルギを磁気エネルギーへと変換し再度 電気エネルギーへ変換することで電圧変換行う

そして「田んぼ」直前につながる用水路(入力インダクタL②)で最終的に水量を調整し、再び不純物(ノイズ)を「田んぼ」(出力コンデンサ:C②)で沈殿、結果、良い「作物」が育ちます。なお、「用水路」はノイズ除去用のフェライトビーズインダクタの場合もあります。

図 2 受動部品と電源ICの役割イメージ 図 2 受動部品と電源ICの役割イメージ
 

- 「作物を成長させるためには必要な水量を安定して供給する」を「ICの駆動には必要な電気量を安定して供給する」とたとえることができるのですね。
そして、安定して水を供給するためには「パイプ」や「用水路」つまり、電気の流れを調整するインダクタや、
電気を貯めノイズをフィルタリングして量を調整する「貯水池」や「田んぼ」の役割となるコンデンサがとても重要なのですね。

高橋様:  かなりデフォルメした説明ですが、まずイメージということで。

- この「貯水池」と「田んぼ」でたとえたコンデンサの種類ですが、“電解コンデンサ”と“セラミックコンデンサ”がありますよね。

高橋様:  そうですね。他にも種類はありますが、最もポピュラーな2つのコンデンサの違いについてご説明します。

★★★

 

電解コンデンサとセラミックコンデンサの違いについて

高橋様:  電解コンデンサとセラミックコンデンサの違いについてご説明します。

最初に、コンデンサの等価回路は、静電容量成分(C )、直列等価インダクタンス:ESL(Equivalent Series Inductance)成分、直列等価抵抗:ESR(Equivalent Series Resistance)成分の直列回路で表します。 (図3)

図 3 コンデンサの等価回路 図 3 コンデンサの等価回路

コンデンサの等価回路 コンデンサのインピーダンス式で表すと「Z = 1/(jωC)+jωL+ESR」になります。
次に、図4はインピーダンスZの周波数特性になります。基本的な形はV字型の曲線ですが、コンデンサの種類により容量・ESR・ESLが異なるため、グラフの形も変化します。

図 4 コンデンサのインピーダンスと周波数特性
  図 4 コンデンサのインピーダンスと周波数特性
 
(Rの補足)
図4はインピーダンスZを表しており、直列共振周波数f0ではESLもCも0Ωとなるために、残っているのがESR成分だけということを示しています。Cは周波数が高くなるにつれてインピーダンスの一部(容量性リアクタンス)が弱まりゼロになります。ESLは直列共振周波数を超えるとインピーダンスの一部(誘導性リアクタンス)が強くなり数値が大きくなっていきます。ESRの抵抗成分は周波数によって変動がないため、直列共振周波数では抵抗成分のみが残ることを示しています。

豆知識: なぜ ESI じゃなくてESL ?
ESLのインダクタンスを意味する“L”はなぜ“Inductance“の“I”ではないのか?と疑問に感じますが、それは“Lenzの法則”のLenz博士に敬意を表したための“L”だそうです。さらに、“I”にすると電流の“I”を混同するからという話もあります。
また“I”は“Current”の“C”ではなくて“I”なのは、“C”が“Capacitance”を意味するからと思われます。意味は“Intensity of Current“の”I“。所説ありますが、理由を証明する明確な文献はないそうです。

 

 

高橋様:  図5をご覧ください。

図 5 電解コンデンサと積層セラミックコンデンサ(MLCC) 図 5 電解コンデンサと積層セラミックコンデンサ(MLCC)

 

アルミ電解コンデンサは、陽極用アルミ箔と陰極用アルミ箔を電解紙とともに円筒状に長く巻いた構造をしています。そして、アルミ箔の両端には電極の端子(リード線)がついています。

ボトルにたとえると、この形は容器の首が長く(ESLが大きい)細い(ESRが高い)ため電荷の出し入れがしづらい構造であることが分かると思います。但し、筒状だと沢山の「水」を入れることができますね。同じく電解コンデンサも静電容量が大きくできるというメリットがあります。

積層セラミックコンデンサは、容量を形成する誘電体と抵抗成分を持った導体の内部電極が並列(層状)になっています。内部電極と外部電極の接合部が複数(数百以上)あり、近いのも特徴です。等価回路に置き換えると内部電極の抵抗やインダクタンスが並列に接続する構造になります。 積層数が増えると、並列に接続する抵抗やインダクタンスの数が増えるため、ESR, ESL は小さくなります。そのため、低ESRの積層セラミックコンデンサは容器の口が広く電荷の出し入れが容易になります。

- なるほど、電気となる「水」を出し入れするとき、電解コンデンサは「たくさん入るが、出し入れする部分が細長いボトル」、積層セラミックコンデンサ(MLCC)は「容量は小さいが、口が広く出し入れしやすいコップ」とイメージできますね。

高橋様:  そして、電解コンデンサと積層セラミックコンデンサの差は、ESL、ESRの端子間の距離(LW比)による端子間の抵抗に左右されます。

積層セラミックコンデンサ(MLCC)の特徴について

高橋様:  まとめると、積層セラミックコンデンサ(以降MLCC)の特徴は下記となります

  • 小型 :誘電体材料の比誘電率が大きいため、同じ容量値でも小型となる
  • 高信頼 :誘電体の膜厚が厚い、材料が固体(物質の安定性が液体より高い)
  • 低ESR :電解質の電導度が大きい
  • 積層構造:内部電極と外部電極の接合部が数百以上

 

これを図示すると、図6になります。

図 6 電解コンデンサとMLCC図 6 電解コンデンサとMLCC

 

電源回路に要求される特性とコンデンサのインピーダンス特性

高橋様:  電源回路に要求される特性と、コンデンサのインピーダンス特性についても考えてみましょう。

電源回路での耐ノイズ性や応答性能は、コンデンサのESR・ESL特性が大変重要になります。図7では、電解コンデンサとMLCCでは、材料・構造の違いよりESR・ESL特性にも差が出ていること分かります。ESL・ESRが小さいと電荷の移動を阻害するものが少ないため、電荷の高速の出し入れが可能となります。

- そのため、電荷の高速の出し入れの要求が高い半導体ICの周りでは、セラミックコンデンサが使われることが多いのですね。

高橋様:  おっしゃる通りです。MLCCの容量・サイズによる違いですが、大容量化=積層数が多くなる事でトータル面積が増え、また、積層数が増える事でESRが下がるということは先ほどご説明しましたが、次はESL特性に着目しましょう。

図7の、MLCC1608、MLCC2012、MLCC3216、MLCC3225のグラフを見ると、ESL特性の波形はほぼ同じ形を描いていることがわかります。ESLを簡単に考えると距離と説明しましたが、サイズの縦横比も特性に影響します。MLCC1608の長さ 対 幅は2:1です。他3製品の長さと幅のサイズ比率もほぼ2:1のため、ESL特性はおおよそ一緒になります。

図7 コンデンサの種類差とインピーダンス特性 図7 コンデンサの種類差とインピーダンス特性

また、ESL特性を向上させた低ESLのLW逆転タイプ積層セラミックコンデンサもあります。その形状の縦横は通常品と逆、長手方向に電極がついています。例えば、通常品となる”MLCC1608 ”はL寸1.6×W寸 0.8ですが、LW逆転の低ESL型はL寸0.8×W寸1.6です。LW逆転のMLCCは幅広で短い経路となるために、通常品に比べてESR・ESL特性は向上します。

コンデンサの記号の意味について

- つぎは、コンデンサの記号の意味についても復習させてください。
むかしは電源IC出力の発振の懸念があったため「セラコンはB特性以上を選んでください」とお客様に説明をしていましたが・・・。

高橋様:  そうですね、図8のB、FやX5Rは温度特性を記号で表しています。
JIS規格ではB、Fと呼んでおり、アメリカ電子工業会EIAの規格ではX5RやX7Rがあり、表記を併用しています。これらは高誘電系のクラスⅡコンデンサの記号です。他に温度補償系のクラスⅠの記号もありますが、ここでは割愛します。

図8 高誘電率系コンデンサ記号(クラスⅡ)
図8 高誘電率系コンデンサ記号(クラスⅡ)

高橋様:  電源回路で良く使われる容量帯のMLCCはクラスⅡが多いため、温度範囲と変化率との相関を図9に示します。また、温度記号と変化率記号を表にしましたのでご参照ください。最近は製造技術の向上と需要の低下もあり、変化率の大きいF特(Y5V)-80%以上at 85℃はカタログには掲載しておりません。

image-png-3
図 9 許容誤差と温度特性と記号

- そうなのですね。知りませんでした。今では技術の進歩で特性の悪いクラスの製品そのものが市場から無くなってきているということですね。

高橋様:  そうなのです。温度特性はあまり気にしなくて問題ありませんよ。逆に、今気にしないといけない特性、それは、電圧バイアス特性なのです。

- ついにバイアス特性の話が出てきましたね。過去に電源ICのサポート時にこれで良く苦労しました。

・・・・ と、ここまで来たのですが、今回は既に多くの基礎を教えていただきましたので、電源ICにとって核心となるセラミックコンデンサのバイアス特性については次回にお願いしたいと思います。

わかりやすい解説ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。

高橋様:  はい、よろしくお願いします。

 

~ 次回に続く ~

 

 プロフィールのご紹介

画像:高橋様高橋吉幸 様
営業本部 営業企画部 兼 商品管理部 部長

太陽誘電の”技術のわかる営業”として、販売、セールスエンジニアリング及び商品企画に従事。新製品の企画を担当しながら、MLCCの新規プロジェクトのキーマンとしても参画。技術イノベーションに対して常にアンテナを張り、一つの枠にとらわれない自由な発想で受動電子部品メーカの進むべき道をリードする。
半導体の微細化 ムーアの法則とは
リニアレギュレータってなんだろう?

About Author

神馬
神馬

日清紡マイクロデバイス 電子デバイス事業統括本部 事業企画課。 外資系電子部品メーカーの日本地域担当FAEとして業務遂行している中で、海外の新興会社が簡単に真似することができないCMOSアナログ技術をコア技術とする当社(旧リコー電子デバイス)に惹かれ、2016年に入社。お客様の困りごとを解決できるような製品やソリューションを企画、提案し、鋭意活動中。

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