現代の私たちの生活は非常に多くの電子機器に囲まれています。電子機器を動作させるにあたっては、ご自宅のコンセントや電池から供給される電力を効率よく変換しなくてはなりません。この電力変換を非常に効率よく行なってくれるのが、DC/DCコンバータのひとつである、DC/DCスイッチングレギュレータです。
このレギュレータについて、本ブログでは、2回に分けて、わかりやすく説明していきたいと思います。
前編の今回は、降圧DC/DCスイッチングレギュレータのしくみ、波形生成のための制御方式の違い(PWM制御、PFM制御)、整流方式の違い(同期整流、ダイオード整流)について簡単に説明いたします。
LDOもDCDCもDC/DCコンバータ
よく電源ICとして、リニアレギュレータとDC/DCコンバータと並列で語られることがありますが、実際、DC/DCコンバータとは文字通り、直流(DC)の電圧を、一定の直流(DC)電圧に変換して出力する装置です。
その変換方式の違いで、リニアレギュレータや、スイッチングレギュレータに分類されます。
要するに、リニアレギュレータも、DC/DCコンバータの一つなのです。
一方、スイッチングレギュレータも、DC/DCコンバータの一つなのですが、上記のように、リニアレギュレータ(LDO)と並列に、スイッチングレギュレータ自体をDC/DCコンバータと呼んだり、もっと簡単にDCDC(デコデコ)と呼んだりすることがあります。
DC/DCコンバータのイメージ
本コラムでは、コイルを用いた非絶縁型のスイッチングレギュレータに注目して説明していきたいと思います。
DC/DCスイッチングレギュレータとは?
前述したように、DC/DCスイッチングレギュレータは、直流(DC)の電圧を、一定の直流(DC)電圧に、スイッチング方式で変換するレギュレータですが、リニアレギュレータとの大きな違いとしては、リニアレギュレータが降圧動作のみ可能なのに対して、DC/DCスイッチングレギュレータは降圧、昇圧、昇降圧、反転動作と様々なトポロジー*を実現できる点です。また、電力の変換効率が良好なことから、大出力電源の構成には必ずと言っていいほど用いられる電源ICです。
*電気回路において「トポロジー」は、回路内の部品間の接続状態のことを意味していますが、ここでは、接続状態の違いによる回路動作の種類を意味する言葉として使用しています。
日清紡マイクロデバイスのDC/DCスイッチングレギュレータ ラインナップはこちら
DC/DCスイッチングレギュレータのしくみ?
まずは最も使用頻度の高い降圧(英語ではstep-down、あるいは、buckと呼ばれています)DC/DCスイッチングレギュレータを例に説明します。
基本的な構成を図1に示します。スイッチング素子(以降、スイッチ)2つ、インダクタ(コイル)とコンデンサで構成されています。
図1 降圧DC/DCスイッチングレギュレータの回路図
入力電圧(図2左側)に対し、ハイサイドとローサイドと呼ばれるスイッチを制御し、ONとOFFを交互に切り替えてパルス波形を生み出します。(図2中央、スイッチ出力電圧)
その波形をインダクタ(コイル)とコンデンサで構成されるLCフィルタ(ローパスフィルタ)で平滑化することで、出力側に一定した電圧(図2右側、出力電圧)を作り出します。
図2 降圧DC/DCスイッチングレギュレータの電圧波形
出力電圧を一定に調整するカギは、全体の時間に対しハイサイドスイッチがONしている時間の比率となります。これをデューティ比(あるいは、デューティサイクル)と呼びます。デューティ比が大きい(ハイサイドスイッチのON時間が長い)ほど出力電圧が高くなり、小さい(ハイサイドスイッチのON時間が短い)ほど出力電圧は低くなります。
出力側の負荷電流の変化に対しても、以下のようにデューティ比(ハイサイドスイッチのON時間の比率)を調整して、出力電圧を一定にするように動作します。
負荷電流:大(重負荷)→ 出力電圧:低下 → デューティ比:大へ
負荷電流:小(軽負荷)→ 出力電圧:上昇 → デューティ比:小へ
これらスイッチの制御については、後ほど説明いたします。
入力側から、電圧と電流を供給している期間は、ハイサイドスイッチのON時のみです。ハイサイドスイッチOFF時は、入力側からの電圧と電流の供給は停止しています。ハイサイドスイッチOFF時の電流供給の役目を担っているのがインダクタ(コイル)です。
インダクタ(コイル)には、エネルギーの蓄積と放出という DC/DC スイッチングレギュレータにとってとても重要な役割があります。これらを、図3(Step 1を示します)と図4(Step 2を示します)を用いて説明します。
Step 1で、ハイサイドスイッチをON、ローサイドスイッチをOFFにします。入力側(Vin)からインダクタ(コイル)を経由して、出力側に接続されている負荷が必要とする電流を供給します。インダクタ(コイル)には、電流が流れることで磁気エネルギーとしてエネルギーが蓄積されます。(図3)
Step 2で、ハイサイドスイッチをOFF、ローサイドスイッチをONにします。ハイサイドスイッチをOFF にしてもインダクタ(コイル)は電流を流しつづけようとします。インダクタ(コイル)は蓄積したエネルギーを電流として出力側に放出していることになります。この電流によって、ハイサイドスイッチがOFF時にも、出力側に電流が供給されます。(図4)
図3 降圧DC/DCスイッチングレギュレータ
Step 1: ハイサイドスイッチON時、ローサイドスイッチ OFF時
図4 降圧DC/DCスイッチングレギュレータ
Step 2: ハイサイドスイッチOFF時、ローサイドスイッチ ON時
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PWM制御、PFM制御…?
このように、ハイサイドスイッチのON時間(これ以降の説明では、ON時間とします)の比率によって電圧を調整するのがDC/DCスイッチングレギュレータの特徴ですが、そのON時間の比率の調整には二つの方法があります。
一つは周波数(周期)を一定にして一回当たりのON時間(パルス幅)を調節する方法、そしてもう一つはON時間(あるいはOFF時間)を一定にしてON/OFFの切り替え間隔(スイッチング周波数)を調節する方法です。前者はPWM(Pulse Width Modulation, パルス幅変調)、後者はPFM(Pulse Frequency Modulation、パルス周波数変調)と呼ばれるスイッチ制御方式です。それぞれ、簡単に図5と図6に表します。
PWM制御ではスイッチング周波数が一定なので、スイッチのON/OFF時に発生するスイッチングノイズ対策が容易になるというメリットがあります。また、負荷変動に対する応答性が高いという特徴もあります。一方で、軽負荷時の効率はPFM制御よりも劣ります。
図5 PWM(Pulse Width Modulation, パルス幅変調)方式
スイッチング周期は一定、スイッチON時間を変化
もう一方のPFM制御では、スイッチング周波数を負荷デバイスの稼働状況に合わせて変化させます。そのため、軽負荷時にはスイッチング周波数も低くなり、スイッチングによる損失を抑えることができます。反面、スイッチング周波数の変動に応じてスイッチングノイズの周波数も変化するため、ノイズ対策が困難といったデメリットがあります。
図6 PFM(Pulse Frequency Modulation、パルス周波数変調)方式
ON時間(あるいはOFF時間)一定、スイッチング周波数を変化
近年は、通常動作時にはPWM制御、軽負荷時にはPFM制御とスイッチの制御方式を自動で切り替える製品も登場しています。いずれにしろ重要なのは、使用するアプリケーションの実際の稼働条件を定義して、適切なスイッチング方式を採用しているDC/DCスイッチングレギュレータを選ぶ必要があるということです。
PWM制御とPFM制御を自動で切り替えることができる降圧DC/DCスイッチングレギュレータ製品についてはこちら
ダイオード整流方式、同期整流方式…?
DC/DCスイッチングレギュレータには、ON/OFFのパルス波形を出力する方式として、同期整流方式とダイオード整流方式(非同期整流方式)と呼ばれる2つの方式があります。
図1の回路図は、同期整流方式と呼ばれる方式の回路図となります。図1内に示すハイサイドスイッチおよびローサイドのスイッチは、FET(Field effect transistor、電界効果トランジスタ)等のトランジスタで構成します。ハイサイドスイッチとローサイドスイッチを、スイッチ制御回路でそれぞれON/OFFを切り替えます。ハイサイドスイッチのON/OFFとローサイドスイッチのOFF/ONのタイミングを同期させることから同期整流方式と呼ばれます。
図7に、ダイオード整流方式による降圧DC/DCスイッチングレギュレータの例について示します。図1のローサイドスイッチを、ダイオードのスイッチ機能で置き換えたものです。ダイオード整流方式は、一つのスイッチのON/OFFのタイミングだけ考えればいいので、制御が比較的シンプルです。しかし一方で、ダイオード自体が電力を消費するため、電力変換効率の点で不利となります。そのため、順方向電圧降下(Vf) が小さいショットキーバリアダイオードを使用し、ダイオードがON時の電力消費をなるべく少なくします。
図7 ダイオード整流方式
(降圧DC/DCスイッチングレギュレータ)
一方で、同期整流方式にもデメリットはあります。それは、2つのスイッチのON/OFFのタイミングを制御する回路が別途必要になり、ダイオード整流方式に比べてコストが高くなりがちな点です。ハイサイド、ローサイドの2つのスイッチが同時にONしてしまうと、入力からグラウンドに短絡経路が生まれます。この短絡経路を貫通電流が流れることで、DC/DCスイッチングレギュレータそのものを自己破壊してしまう恐れがあります。このような自己破壊のリスクを防ぐために別途制御回路が必要になるのです。
今回はここまでです。
次回の後編は、降圧以外の動作(昇圧、反転、昇降圧)や、リニアレギュレータとの比較、DC/DCスイッチングレギュレータが持つさまざまな保護機能などについて、説明したいと思います。次回をお楽しみに。
後編:DC/DCスイッチングレギュレータ(DC/DCコンバータ)って何?(後編)~昇圧、反転、昇降圧~
2024/05/07 更新
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