2022年4月21日 公開
2024年 12月25日 更新
現代の私たちの生活は非常に多くの電子機器に囲まれています。電子機器を動作させるにあたっては、ご自宅のコンセントや電池から供給される電力を効率よく変換しなくてはなりません。この電力変換を非常に効率よく行なってくれるのが、DC/DCタイプやAC/DCタイプがある、スイッチングレギュレータです。
その中でも、本ブログでは、2回に分けて、DC/DCスイッチングレギュレータについて、わかりやすく説明していきたいと思います。
前編の今回は、代表的な降圧DC/DCスイッチングレギュレータを中心に、しくみや原理、DC/DCスイッチングレギュレータの特徴である、波形生成のための制御方式の違い(PWM制御、PFM制御)、整流方式の違い(同期整流、ダイオード整流)、などについて簡単に説明いたします。
DC/DCスイッチングレギュレータ(DC/DCコンバータ)とは?
DC/DCスイッチングレギュレータは、一般的にDC/DCコンバータとも言われますが、まずは、DC/DCスイッチングレギュレータの説明に入る前に、電源ICの種類について簡単に紹介しましょう。(下図参照)
電源ICには様々な種類のものがあり、大きく分けて、LDOなどトランジスタを調節して電圧をリニア(直線的)に出力するリニアレギュレータと、DC/DCスイッチングレギュレータなど、スイッチをOn/Offさせて一定電圧を出力する、スイッチングレギュレータに分けることができます。
また、スイッチングレギュレータの中には家庭用のAC電源(交流)からDC電圧(直流)へ変換するAC/DCや、AC/DC変換された後に5V、3.3V等のDC電圧を生成するDC/DCスイッチングレギュレータや、DC/DCコントローラ※があります。
※DC/DCスイッチングレギュレータ(DC/DCコンバータ)がドライバFETを内蔵しているのに対し、DC/DCコントローラは、ドライバFETを内蔵しておらず、外付けしたFETを制御する(コントロールする)DC/DCです。
電源ICの種類とDC/DCスイッチングレギュレータの種類(青ハッチ)
DC/DCスイッチングレギュレータの種類
では、DC/DCスイッチングレギュレータにはどのような種類があるのでしょう?
分け方は様々あると思いますが、外付けのタイプで分けた場合、大きくわけて、インダクタタイプ、トランスタイプ、キャパシタタイプなどに分けることができます。
インダクタタイプ
インダクタタイプは、インダクタ(コイル)を利用してエネルギーを蓄積・放出しながら電圧を変換する、DC/DCスイッチングレギュレータで、色々な方式に分けることが可能です。
変換方式 | 直流電圧を異なる直流電圧に変換するためのエネルギー変換方法で、降圧、昇圧、反転、昇降圧などがある。 |
整流方式 | スイッチング回路で変換された交流成分を直流に変換する方法で、同期式と非同期式がある。 |
制御方式 | スイッチング素子のオン・オフのタイミング(パルス)を制御する方式で、PWM、強制PWM、PFMなどがある。 |
回路方式 | フィードバックループの制御など上記のパルス制御以外の制御方式で、電圧モード、電流モード、COT制御などがある。 |
インダクタタイプの様々な方式
トランスタイプ
トランスタイプは、絶縁型とも言われ、文字通り入力側と出力側の電気的な接続を完全に分離(絶縁)したDC/DCスイッチングレギュレータ(コンバータ)です。トランスタイプには、大きく分けて3つの方式があります。
フライバック (Flyback)方式 |
小型で簡単な構造が特徴。スイッチング動作によってトランスにエネルギーを蓄え、それを出力側に放出することで電圧を変換する。主に低出力でコストを抑えた設計に使用され、家電や小型デバイスの絶縁型電源で広く使われている。 |
フォワード (Forward)方式 |
スイッチング動作中にトランスを通じてエネルギーを直接出力側に伝送する方式で、出力フィルタによって電力供給が安定化される。フライバックより効率が高く、通信機器や産業機器などのアプリケーションに適している。 |
プッシュプル (Push-Pull)方式 |
2つのスイッチング素子を交互に動作させてトランスを駆動。トランスの両方向を活用できるため、効率が高く高出力が可能。大型の産業用装置や高電力を必要とする場面で採用され、特に効率が求められるシステムに適している。 |
トランスタイプの方式
キャパシタタイプ
また、キャパシタタイプは、スイッチドキャパシタとも言われ、キャパシタ(コンデンサ)とスイッチを組み合わせることによって、抵抗器のように電流または電圧を制限する電子回路です。その中でも一般的に電源回路として使われるのがチャージポンプといいます。
降圧型チャージポンプ | キャパシタを並列接続して、入力電圧を分割することで、出力電圧を減少させます。 |
昇圧型チャージポンプ | キャパシタを直列接続して入力電圧を加算することで、出力電圧を昇圧します。 |
反転型チャージポンプ | キャパシタが入力電圧を蓄えた後、スイッチングによってその電圧を反転させ、負電圧を出力する。 |
チャージポンプの型式ごとの特徴
このような様々なDC/DCスイッチングレギュレータの中から、本コラムでは、インダクタタイプのDC/DCスイッチングレギュレータに注目して説明していきたいと思います。
使用頻度の高い、降圧DC/DCスイッチングレギュレータの特長は?
前述したように、DC/DCスイッチングレギュレータは、直流(DC)の電圧を、一定の直流(DC)電圧に、スイッチング方式で変換するレギュレータですが、そのスイッチングレギュレータの中でも、一般的に最も使用頻度が高いのが、入力電圧よりも低い電圧を安定的に出力する、降圧DC/DCスイッチングレギュレータです。降圧型のDC/DCスイッチングレギュレータは、同じく降圧するリニアレギュレータよりも、主に、以下の点でメリットがあります。
・効率が良い
・大電流が流せる
・発熱量が少ない
など
では、どうしてDC/DCスイッチングレギュレータは、このようなメリット(特性)が出るのでしょうか? 次項でそのしくみや動作原理も説明していきたいと思います。
降圧DC/DCスイッチングレギュレータのしくみ、動作原理とは?
降圧DC/DCスイッチングレギュレータを例に説明します。(降圧は英語ではstep-down、あるいは、buckと呼ばれています)
基本的な構成を図1に示します。スイッチング素子(以降、スイッチ)2つ、インダクタ※とコンデンサで構成されています。
※コイルと表現することもあります
図1 降圧DC/DCスイッチングレギュレータの回路図
次に図2を用いて、動作を説明します。
入力電圧(図2左側)に対し、ハイサイドとローサイドと呼ばれるスイッチを制御し、ONとOFFを交互に切り替えてパルス波形を生み出します。(図2中央、スイッチ出力電圧)
その波形をインダクタとコンデンサで構成されるLCフィルタ(ローパスフィルタ)で平滑化※することで、出力側に一定の電圧(図2右側、出力電圧)を作り出します。(図1の破線で囲まれた部分がLCフィルタ)
※LCフィルタで平滑化を行いますが、L(インダクタ)とC(キャパシタ)の主な役割は以下のとおりです。
・L(インダクタ)は電流の変化を緩やかにする働きがあり、パルス状の電流がインダクタを通過するときに、電流の急激な変化(リプル)が抑えられ、出力電流を滑らかにします。
・C(コンデンサ)は電荷を蓄えることで、電圧の変動を抑えるので、インダクタを通過した電流がコンデンサに流れ込むことで、出力電圧が安定します。
図2 降圧DC/DCスイッチングレギュレータの電圧波形
出力電圧を一定に調整するカギは、全体の時間に対しハイサイドスイッチがONしている時間の比率となります。これをデューティ比と呼びます。(duty cycleや、単にdutyと呼ぶ場合もあります)
ハイサイドスイッチがONしている時間をTon、ローサイドスイッチがONしている時間をToff、そしてTonとToffの合計の時間を1周期と考えると、デューティ比の式は以下のようになります。
デューティ比 = Ton / (Ton+Toff)
デューティ比が大きい(ハイサイドスイッチのON時間が長い)ほど出力電圧が高くなり、小さい(ハイサイドスイッチのON時間が短い)ほど出力電圧は低くなります。基本的に、Vout(出力電圧)はVin(入力電圧)とデューティ比が決まれば一定になります。
Vout=Vin×デューティ比
入力側から、電圧と電流を供給している期間は、ハイサイドスイッチのON時のみです。ハイサイドスイッチOFF時は、入力側からの電圧と電流の供給は停止しています。ハイサイドスイッチOFF時の電流供給の役目を担っているのがインダクタです。
インダクタには、エネルギーの蓄積と放出という DC/DC スイッチングレギュレータにとってとても重要な役割があります。これらを、図3(Step 1を示します)と図4(Step 2を示します)を用いて説明します。
図3のStep 1で、ハイサイドスイッチをON、ローサイドスイッチをOFFにします。入力側(Vin)からインダクタを経由して、出力側に接続されている負荷が必要とする電流を供給します。インダクタには、電流が流れることで磁気エネルギーとしてエネルギーが蓄積されます。
図3:Step 1 エネルギー蓄積( ハイサイドスイッチON時、ローサイドスイッチOFF時)
図4のStep 2で、ハイサイドスイッチをOFF、ローサイドスイッチをONにします。ハイサイドスイッチをOFF にしてもインダクタは電流を流しつづけようとします。インダクタは蓄積したエネルギーを電流として出力側に放出していることになります。この電流によって、ハイサイドスイッチがOFF時にも、出力側に電流が供給されます。
図4:Step 2 エネルギー放出(ハイサイドスイッチOFF時、ローサイドスイッチON時)
以上が、降圧DC/DCスイッチングレギュレータの動作原理になります。
次に、DC/DCスイッチングレギュレータの代表的な特徴のひとつである、2つの制御方式、PWM制御とPFM制御についてもう少し詳しく説明していきます。
降圧DC/DCスイッチングレギュレータのラインナップはこちら
PWM制御、PFM制御とは?
前述したとおり、ハイサイドスイッチのON時間(これ以降の説明では、ON時間とします)の比率によって電圧を調整するのがDC/DCスイッチングレギュレータの特徴ですが、そのON時間の比率の調整には二つの方法があります。
一つはスイッチのON/OFFの切り替え間隔、いわゆるスイッチング周波数(周期)を一定にして一周期あたりのON時間(パルス幅)を調節する方法、そしてもう一つはON時間(あるいはOFF時間)を一定にしてスイッチング周波数のON/OFFの切り替え間隔を調節する方法です。前者はPWM制御、後者はPFM制御と呼ばれるスイッチ制御方式です。
PWM制御ってなに?
PWM制御は、Pulse Width Modulationの略で、パルス幅変調とも言います。
前述したとおり、スイッチング周波数を一定にして一周期あたりのON時間(パルス幅)を調節します。
PWM制御ではスイッチング周波数が一定なので、スイッチのON/OFF時に発生するスイッチングノイズ対策が容易になるというメリットがあります。また、負荷変動に対する応答性が高いという特長もあります。一方で、軽負荷時の効率はPFM制御よりも劣ります。
図5 PWM(Pulse Width Modulation, パルス幅変調)方式
スイッチング周期は一定、スイッチON時間を変化
PFM制御ってなに?
一方、PFM制御は、Pulse Frequency Modulationの略で、パルス周波数変調とも言います。
PFM制御では、スイッチング周波数を負荷デバイスの稼働状況に合わせて変化させます。そのため、軽負荷時にはスイッチング周波数も低くなり、スイッチングによる損失を抑えることができます。反面、スイッチング周波数の変動に応じてスイッチングノイズの周波数も変化するため、ノイズ対策が困難といったデメリットがあります。
図6 PFM(Pulse Frequency Modulation、パルス周波数変調)方式
ON時間(あるいはOFF時間)一定、スイッチング周波数を変化
近年は、通常動作時にはPWM制御、軽負荷時にはPFM制御とスイッチの制御方式を自動で切り替える製品も登場しています。いずれにしろ重要なのは、使用するアプリケーションの実際の稼働条件を定義して、適切なスイッチング方式を採用しているDC/DCスイッチングレギュレータを選ぶ必要があるということです。
PWM制御とPFM制御を自動で切り替えることができる降圧DC/DCスイッチングレギュレータ製品についてはこちら
同期整流方式、ダイオード整流方式とは?
また、他のDC/DCスイッチングレギュレータの特徴として、ON/OFFのパルス波形を出力する方式に、同期整流方式とダイオード整流方式(非同期整流方式)と呼ばれる2つの方式があります。
同期整流方式
動作原理のところで説明した図1の回路図は、同期整流方式と呼ばれる方式の回路図となります。図1内に示すハイサイドスイッチおよびローサイドスイッチは、FET(Field effect transistor、電界効果トランジスタ)等のトランジスタで構成します。ハイサイドスイッチとローサイドスイッチを、スイッチ制御回路でそれぞれON/OFFを切り替えます。ハイサイドスイッチのON/OFFとローサイドスイッチのOFF/ONのタイミングを同期させることから同期整流方式と呼ばれます。
ダイオード整流方式(非同期整流方式)
一方、図7に、ダイオード整流方式による降圧DC/DCスイッチングレギュレータの例について示します。図1のローサイドスイッチを、ダイオードのスイッチ機能で置き換えたものです。ダイオード整流方式は、一つのスイッチのON/OFFのタイミングだけ考えればいいので、制御が比較的シンプルです。しかし一方で、ダイオード自体が電力を消費するため、電力変換効率の点で不利となります。そのため、順方向電圧降下(Vf) が小さいショットキーバリアダイオードを使用し、ダイオードがON時の電力消費をなるべく少なくします。
図7 ダイオード整流方式
(降圧DC/DCスイッチングレギュレータ)
同期整流とダイオード整流、どちらが良い?
一見、外付け部品が不要なので、同期整流方式の方がメリットがあると思われるかもしれませんが、同期整流方式にもデメリットはあります。
それは、2つのスイッチのON/OFFのタイミングを制御する回路が別途必要になり、ダイオード整流方式に比べてコストが高くなりがちな点です。
ハイサイド、ローサイドの2つのスイッチが同時にONしてしまうと、入力からグラウンドに短絡経路が生まれます。この短絡経路を貫通電流が流れることで、DC/DCスイッチングレギュレータそのものを自己破壊してしまう恐れがあります。このような自己破壊のリスクを防ぐために別途制御回路が必要になるのです。
よって、効率やコストなど、色々な面からどちらが良いか判断して使い分ける必要があります。
DC/DCスイッチングレギュレータの特徴(特長)である様々なトポロジー
これまで、降圧のDC/DCスイッチングレギュレータの特徴について説明してきましたが、前編はここまでです。
DC/DCスイッチングレギュレータがリニアレギュレータと違う最大の特徴として、リニアレギュレータが降圧動作のみ可能なのに対して、DC/DCスイッチングレギュレータは降圧だけでなく、昇圧、昇降圧、反転動作と様々なトポロジー*を実現できる点が大きな特長でもあります。
*電気回路において「トポロジー」は、回路内の部品間の接続状態のことを意味していますが、ここでは、接続状態の違いによる回路動作の種類を意味する言葉として使用しています。
次回の後編では、降圧以外の動作(昇圧、反転、昇降圧)や、リニアレギュレータとの比較、DC/DCスイッチングレギュレータが持つさまざまな保護機能などについて、説明したいと思います。
日清紡マイクロデバイスのDC/DCスイッチングレギュレータ ラインナップはこちら
後編:DC/DCスイッチングレギュレータ(DC/DCコンバータ)って何?(後編)~昇圧、反転、昇降圧~
2024/12/25 更新
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