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DC/DCコンバータ(DC/DCスイッチングレギュレータ)とは?(後編)~昇圧、反転、昇降圧~

boost_converter

 


2022年9月22日 公開
2025年 04月24日 更新

前回のコラム
では、降圧DC/DCコンバータ(DC/DCスイッチングレギュレータ)のしくみや、波形生成のための制御方式の違い(PWM制御、PFM制御)、整流方式の違い(同期整流、ダイオード整流)について説明しました。

今回の後編では、降圧以外の動作(昇圧、反転、昇降圧)や、リニアレギュレータとの比較、DC/DCコンバータが持つさまざまな保護機能などについて、説明したいと思います。

 

昇圧、反転、昇降圧と、様々なトポロジーの鍵を握るのは、インダクタ(コイル)

ここまで降圧DC/DCコンバータを例に説明してきました。主な部品は2つのスイッチ(ダイオード整流方式では、1つはFET等を用いたスイッチ、もう1つはダイオードを用いたスイッチ)と、インダクタ(コイル)、コンデンサでした。

実は、構成の仕方を変えることで、入力された電圧よりも高い電圧を出力する昇圧動作、入力された電圧とは極性が異なる電圧を生成する反転動作、入力電圧の変動に合わせて降圧・昇圧を自動で切り替え一定電圧を生み出す昇降圧動作を行えることも、DC/DCコンバータの特長です。

様々なトポロジーを可能にするカギは、インダクタです。インダクタには電流の変化に逆らうように起電力を発揮するという特徴がありますが、DC/DCコンバータを用いた電源回路においては、そのようなインダクタの性質を応用した電気的エネルギーの蓄積と放出の制御が重要になります。
※ここでのトポロジーは接続状態による回路動作の種類のことで、詳細は前回コラムを参照のこと。

先ずは、Voutが上昇する、昇圧DC/DCコンバータの例を紹介します。

 

昇圧DC/DCコンバータ(スイッチングレギュレータ)とは?

昇圧(英語ではstep-up、あるいは、boostと呼ばれています)DC/DCコンバータは、図8のような回路構成になります。ここでは、2つのスイッチを、それぞれ、スイッチ1、スイッチ2としています。

図08
図8 昇圧DC/DCコンバータ

 

9Step 1)と図10Step 2)を用いて簡単に説明します。

Step 1で、スイッチ1ON、スイッチ2OFFにします。入力側(Vin)からインダクタを経由して、GND への電流が序々に増加します。インダクタに電流が流れることで、インダクタにエネルギーが蓄積されます。(図9

 

Step 2で、スイッチ1OFF、スイッチ2ONにします。スイッチ1OFF にしてもインダクタは電流を流しつづけようとします。インダクタは蓄積したエネルギーを電流として放出していることになります。この電流によって出力コンデンサが充電され出力電圧は上昇します。(図10

Step 1Step 2 を交互に切換えることで出力電圧Voutが上昇します。

Up_step1図9 昇圧DC/DCコンバータ内部の電流経路
Step 1: スイッチ1 ON、スイッチ2 OFF

 

Up_step2図10 昇圧DC/DCコンバータ内部の電流経路
Step 2: スイッチ1 OFF、スイッチ2 ON

 

DC/DCコンバータ(DC/DCスイッチングレギュレータ)のラインナップはこちら

 

次に、極性反転する、反転DC/DCコンバータを紹介します。

 

反転DC/DCコンバータ(スイッチングレギュレータ)

反転(英語ではinvertingDC/DCコンバータは、様々な回路構成があり、図11にその一例を示します。

 

少し横道にそれますが、この回路構成は、昇降圧(英語ではbuck-boost)に分類されている場合もあります。それは、出力電圧値を絶対値として見た場合に、入力電圧に対し、昇圧および降圧の両方の動作を行うことができるからです。そのため反転昇降圧(英語ではinverting buck-boost)と呼ぶ場合もあります。

日清紡マイクロデバイスのウェブサイトの製品パラメトリック検索では、反転しない昇降圧はbuck-boost、反転をともなうものはinvertingに分類しています。

ここでは、反転DC/DCコンバータとして説明していきます。

Rev図11 反転DC/DCコンバータ

 

12Step 1)と図13Step 2)を用いて簡単に説明します。

Step 1で、スイッチ1ON、スイッチ2OFFにします。入力側(Vin)からインダクタを経由して、GND への電流が序々に増加します。インダクタに電流が流れることで、インダクタにエネルギーが蓄積されます。(図12

Step 2で、スイッチ1OFF、スイッチ2ONにします。スイッチ1OFF してもインダクタは電流を流しつづけようとします。インダクタは蓄積したエネルギーを電流として放出していることになります。この電流によって出力コンデンサが放電され出力電圧は下降します。(図13

Step 1Step 2 を交互に切換えることで、出力電圧が0V以下に下降します。

 

Rev_step1図12 反転DC/DCコンバータ内部の電流経路
Step 1: スイッチ1 ON、スイッチ2 OFF

 

Rev_step2図13 反転DC/DCコンバータ内部の電流経路
Step 2: スイッチ1 OFF、スイッチ2 ON

 

DC/DCコンバータ(DC/DCスイッチングレギュレータ)のラインナップはこちら

 

最後に、昇降圧DC/DCコンバータの例を、当社の昇降圧製品RP604を使って、紹介します。

 

昇降圧DC/DCコンバータ(スイッチングレギュレータ)

14に、4つのスイッチで構成する昇降圧(英語ではbuck-boostDC/DCコンバータの例を示します。1つのチップ内にインダクタを共有するように同期整流型の降圧回路と昇圧回路を各1セットずつで構築しています。入力電圧に応じて降圧動作と昇圧動作を自動的に切り替えることで、一定電圧を維持できるのが特長です。

図14図14 昇降圧DC/DCコンバータ
スイッチ構成の例

 

15と図16にそれぞれ、降圧時と昇圧時のスイッチの状態を示します。

降圧動作時は、昇圧側のスイッチを図15のように固定することで、降圧DC/DCコンバータと同じ回路構成となります。その状態で、降圧側のスイッチのON/OFFを制御することにより、降圧動作を行います。(前回コラムの図3、図4の動作)

反対に、昇圧動作時は、降圧側のスイッチを図16のように固定することで、昇圧DC/DCコンバータと同じ回路構成となります。その状態で、昇圧側の2つのスイッチのON/OFFを制御し、昇圧動作を行います。(図9、図10の動作)

updown1図15 昇降圧DC/DCコンバータ
4スイッチ構成の例 降圧動作時

 

updown2b図16 昇降圧DC/DCコンバータ
4スイッチ構成の例 昇圧動作時

 

2019年"超"モノづくり部品大賞の、電気・電子部品賞を受賞した当社のRP604、および、その次製品のRP605は、4スイッチ構成を採用しています。

 

DC/DCコンバータ(DC/DCスイッチングレギュレータ)のラインナップはこちら

 

DC/DCコンバータ(DC/DCスイッチングレギュレータ)の特徴(特長)

DC/DCコンバータとよく引き合いに出されるのが、リニアレギュレータ(LDO:Low DropOut regulator)です。どちらも電圧を一定にして出力する電源ICですが、リニアレギュレータと比較して、DC/DCコンバータは何が異なるのでしょうか?何が優れているのでしょうか?以下の表1にまとめてみました。

 

表1 DC/DCコンバータの特徴( vs リニアレギュレータ)
  DC/DCコンバータ
(スイッチングレギュレータ)
リニアレギュレータ
(LDOレギュレータ)
効率 高い 低い
出力ノイズ 大きい  小さい
回路設計 難しい  簡単
必要な外付け部品点数 多い  少ない
負荷電流 大きい 小さい
コスト 高い  低い
トポロジー 降圧、昇圧、昇降圧、反転 降圧のみ

 

ここまで述べたとおり、DC/DCコンバータは電力の変換効率が高い反面、スイッチを制御するための回路設計が複雑で、スイッチング動作に伴い出力電圧にノイズが発生するといったデメリットがあります。オーディオのようなアプリの場合、電源供給時にノイズが発生すると、そのノイズの影響で音質が低下するなどの悪影響が出たりします。

一方、リニアレギュレータは変換効率こそ低いものの、回路設計の容易さと、ノイズの少ない出力電圧を強みとしています。
つまり、お互いがお互いのデメリットをカバーし合う関係になっているのです。

電源選びの際には、供給先のデバイスが要求する電源仕様を確認して、DC/DCコンバータか、それともリニアレギュレータなのか、適切な電源を検討する必要があります。

 

DC/DCコンバータ(DC/DCスイッチングレギュレータ)の保護機能

ここまでは主に基本的なDC/DCコンバータの動作や特徴について説明をしてきました。しかし実際には、電源のみならずシステム全体の正常な動作を妨げたり、DC/DCコンバータそのものの自己破壊を引き起こしたりするトラブルからシステムおよびDC/DCコンバータ自身を保護する必要があります。そのために、DC/DCコンバータには様々な保護回路が搭載されています。その例を以下の表2に示します。

 

表2 DC/DCコンバータの保護機能例
  説明 FAQ(詳細説明ページが開きます。)
サーマルシャットダウン(TSD)機能 サーマルシャットダウン機能とは、出力端子とグラウンド端子がショートした際など、大きな電流が流れることによって引き起こる過熱を検知して、出力をオフし破壊を防ぐ保護機能です。
サーマルシャットダウン回路とは
ソフトスタート機能 ソフトスタート機能とは、電源IC(LDOレギュレータやDC/DCコンバータ)の起動時の突入電流(インラッシュ電流)を抑制し、オーバーシュートを発生させないようにする機能です。 ソフトスタート機能とは
低電圧誤動作防止機能(Under Voltage Lock Out, UVLO) 低電圧誤動作防止機能(Under Voltage Lock Out, UVLO)とは、ICの入力電圧 (Vin) が動作電圧範囲よりも下がり、ICの内部回路が異常状態となる前に動作を止めて保護する制御機能です。 UVLO(低電圧誤動作防止機能)とは
過電圧誤動作防止機能(Over Voltage Lock Out, OVLO) 過電圧誤動作防止機能
(Over Voltage Lock Out, OVLO)とは、ICの入力電圧 (Vin) が動作電圧範囲よりも上がり、ICの内部回路が異常状態となる前に動作を止めて保護する制御機能です。
-
出力過電圧保護(OVP)機能 出力のOVP (Over Voltage Protection:過電圧保護) とはVOUT端子電圧を監視し、IC内部で設定されたOVP電圧を超えると出力を停止する機能です。接続先の回路に過大な電圧を印加しないようにするための保護機能です。 出力のOVP(過電圧保護)とは
過電流保護(OCP)機能 過電流保護 (OCP:Over Current Protection) とは、出力短絡などによって出力電流が想定以上に大きくなってしまう時に、電源ICやシステムの故障を防ぐために出力を停止する機能です。過大な電流が流れ続けることによる、電源ICの特性の劣化、動作不具合、破壊などの不具合を防止します。
日清紡マイクロデバイスのDC/DCコンバータの過電流保護にはパルスバイパルス型(ILX)、ラッチ型、リセット型 (ヒカップ型) とフォールドバック型の4つのタイプがあります。
DC/DCスイッチング・レギュレータの過電流保護(OCP)とは

 

 

最後に

現代は様々な電化製品に囲まれる暮らしが当たり前になりましたが、その部品に注目が集まる機会はそう多くありません。特に電源ICは、世間でよく話題になるプロセッサやメモリとは異なり、かなり影の薄い存在です。しかし、その花形部品たちが、ひいてはシステム全体が、安全かつ省エネで動作するためには、電源を効率よく変換しデバイスへと供給するDC/DCコンバータのような電源ICが欠かせません。たとえ目立たずとも、変化する時代のニーズに応えるべく、DC/DCコンバータも日夜進化し続けているのです。

 

前編:DC/DCコンバータ(DC/DCスイッチングレギュレータ)とは?(前編)~動作原理は?~

日清紡マイクロデバイスのDC/DCコンバータのラインナップはこちら

 

DC\DCコンバータ(DC/DCスイッチングレギュレータ)のオンラインシミュレーション

PrimeDesigner2※遷移後のページ、中程にあります

 

その他のFAQコラム

 

半導体の品質保証って何ですか?(バスタブカーブって?)
半導体産業の水平分業化とファブレスの躍進

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おしえて電源IC委員会
おしえて電源IC委員会

日清紡マイクロデバイスのデジタルマーケティング課が中心となった、アナログICについて、世の中に発信する委員会。電源IC委員会と書いてはいるものの、実際は電源IC以外のものでも、必要と感じたら発信する予定。

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