今回はリセットIC(ボルテージディテクタ、電圧検出器)って何?という、お話です。
ある日、ベテラン社員の先輩Aさんのところに、入社3年目の新人B君がやってきました……
教えて先輩!シリーズ 第14回
リセットIC (ボルテージディテクタ、電圧検出器)って何ですか?~基本をイチから学んでみよう!~
新人B
先輩、リセットIC(ボルテージディテクタ、電圧検出器)について教えていただきたいのですが。
先輩A
うん?どういう点についてだ?
新人B
リセットICっていくつか種類がありますよね。どう使い分けたらよいかよくわからないんです。
基礎から教えて欲しいんですが……
リセットICの役割はマイコンの入力電圧の監視
先輩A
なるほど。
そもそもリセットICはボルテージディテクタ(電圧検出器)と呼ばれるようにマイコンに入力される電圧を監視するICなんだよ。
マイコンに限らず電子部品には動作電圧範囲があって、その範囲から外れた電圧が入力されると誤動作したり壊れたりするリスクがあるわけ。
だから、マイコンの入力電圧を監視して動作電圧範囲を下回る前に、リセット信号を出力してマイコンを停止させるんだ。
以下は動作電圧範囲が3.3V±10%のマイコンの場合の模式図だよ。
図1: 電圧低下時のリセットのイメージ
新人B
はい。そこまではわかります。マイコンが誤動作して機器が暴走したら大変ですから。
先輩A
じゃあノーマルタイプと遅延回路内蔵タイプの違いから説明しようか。
遅延回路って言っているけど厳密には解除遅延回路なんだ。この「解除」が重要だよ。リセットICはマイコンの入力電圧の低下を検知すると速やかにマイコンにリセット信号を送るよね。でも、その電圧が上昇してマイコンの動作電圧範囲に復帰したらリセットを解除するんだ。ノーマルタイプは電圧復帰を検出すると速やかにリセット信号を解除する。それに対して遅延回路内蔵タイプは電圧復帰を検出しても解除遅延時間経過後にリセット信号を解除するんだ。その理由の 1つはパワー・オン・リセットなんだ。
遅延回路内蔵タイプの目的はパワー・オン・リセット
新人B
パワーオンリセット、ですか?
先輩A
電子機器、電化製品の電源オンって結構面倒くさいんだよね。いろいろな回路ブロックを順番に立ち上げるといったシーケンス制御もあって、スパッとマイコンが起動するわけではないんだよ。そして、マイコンが起動しても自身のイニシャライズ(初期化)などの時間も必要だしね。そういう時間ってマイコンが安定動作できないんだよ。
新人B
レギュレータICとかがマイコンの入力電圧を安定化させていますし、マイコンのイニシャライズって一瞬ですよね?
先輩A
まあね。確かにマイコンの動作が安定しない時間って一瞬なんだ。そのわずか数十ms~数百msの時間でもマイコンが暴走したりしてしまうんだよ。なので、その間はマイコンを止めておくわけ。つまり、リセット信号を出しっぱなしにするんだよ。逆に言うとリセットを解除しないんだよね。これが解除遅延ってわけ。
図2: パワー・オン・リセット
新人B
なるほどです。ノーマルタイプは普通に電圧低下を検出してリセットをかける、遅延回路内蔵タイプはパワー・オン・リセットに使うってことですね。
先輩A
そうだね。それぞれ使い分けるんだよ。
新人B
遅延回路内蔵タイプって外付けコンデンサ型と内部カウンター型の2種類があるんですけど、どう使い分けるのですか?
外付けコンデンサ型と内部カウンター型
先輩A
外付けコンデンサ型は遅延時間を外付けコンデンサの容量で決められる自由度があるんだけど、そのために 1つ端子が多いんだよ。
逆に内部カウンター型は端子が増えないんだけど遅延時間がIC内部で固定されているから自由に決められないっていうデメリットがあるわけさ。
表1: 外付けコンデンサ型と内部カウンター型
新人B
なるほど。遅延時間が自分の仕様に合えば内部カウンター型の方が良いってことですよね。
リセットICの出力形態
先輩A
あと、出力形態ってわかるかな?
新人B
CMOS出力とかNMOSオープンドレイン出力(Nch. オープンドレイン出力)とかですか?
これはマイコンのRESET端子にリセット信号を正しく受け渡せたら良いのですよね。
マイコンの電源が何かによって違うと思いますけど、リセットICと同じ電源に接続されているならCMOS出力、違うのならNMOSオープンドレイン出力でプルアップ接続ですよね。
表2: NMOSオープンドレイン出力とCMOS出力
先輩A
そのとおり。
要はリセットICの”H”、”L”の信号をマイコンが正しく”H”、”L”と認識できるように接続するってことなんだ。リセットICが”H”信号を出していてもマイコンがそれを”L”信号と認識しちゃったらリセットがかかっちゃうよね。
CMOS接続はリセットICとマイコンが同じ電源に接続されているので”H”、”L”のレベルが同じということ。それに対してリセットICとマイコンが違う電源に接続されている場合にはプルアップ接続をして”H”のレベルを合わせるんだよ。
新人B
最初はプルアップしているのに”L”信号が出るって意味が分からなかったですけど。
要はプルアップ抵抗とリセットIC出力部のNMOSのON抵抗の比で”H”、”L”が決まるんですよね。
NMOSのON抵抗は小さいのに対してプルアップ抵抗がとても大きいからオンした際には限りなくGNDレベルに近い電圧が出力される、つまり、”L”が出力されるってことですよね。下図の基本回路例の青線部分だとおそらくは500:1 ぐらいの抵抗比になりますから。
図3: NMOSオープンドレイン出力の”L"出力
先輩A
そうだね。わかってるじゃないか。プルアップ抵抗の推奨値について詳しく知りたい場合はFAQをみてね。
新人B
まあ、そのぐらいは……
ただ、リセットICって不定領域がありますよね。あれって怖いんですけど。
不定領域でマイコンが暴走したら困りますよね。
リセットICの不定領域
先輩A
まあ、リセットICもICだからね。最低動作電圧を下回ると正常動作は保証されないよ。
図4: NMOSオープンドレイン出力の不定領域
新人B
どうしたらよいんでしょうか。
SENSE端子分離型で不定領域をなくせる
先輩A
高信頼性が求められるなど、どうしても不定領域があると困る場合にはSENSE端子分離型を使うんだよ。
普通のリセットICは電源端子と電圧検出端子(SENSE端子)が同じなんだけど、それが分かれているんだ。つまり、リセットICの電源(VDD)は安定的に供給されているから不定にならないってことなんだよ。
図5: SENSE端子分離型のタイミングチャート
新人B
なるほど。でも、それって安定した電源が別にある場合に限られますよね。
先輩A
まあねえ。そもそも電源がないと(ICの動作電圧範囲の電圧が供給されないと) ICって動かないからね。
ただ、さっきのNMOSオープンドレイン出力もそうだけど、他の電源ってあるっちゃあるよね。
だからSENSE端子分離型って結構使われているんだよ。
先輩A
あと、リセット信号が”H”の製品があるんだ。
リセット信号"H"の製品でも不定領域をなくせる
新人B
マイコン側がリセット信号として”H”信号を要求しているケースに使うんですよね。
先輩A
まあ、そうなんだけど、不定領域対策にも使えるんだ。
新人B
はい?
先輩A
このリセット信号”H”の製品のNMOSオープンドレイン出力を使うと、リセット出力がプルアップされているから不定領域でもリセット信号が”H”になるんだよ。
図6: NMOSオープンドレイン出力 "H"リセット品
新人B
ああ、なるほどです。これは良い感じですよね。
新人B
それと、ヒステリシス幅について教えていただけないでしょうか?
さっきの遅延時間と同じようにリセットの「遊び」のような感じだと思うのですが、ヒステリシス幅がない製品があったりするのでよくわからないんです。
ヒステリシス幅って何?
先輩A
そうだね。その理解はあっているよ。
電圧ってなだらかに変化するって思ってる?そんなことはないんだよ。例えば、急にマイコン側の処理が重くなったらマイコンの入力電圧は下がるよね?負荷が増えるわけだから。それをいちいち検出していると、待ち受け状態だったスマホに着信して負荷が急に増えたら再起動しちゃうじゃないか。まあ、ちょっとオーバーかな。実際にはレギュレータICなどが電圧を速やかに安定化させるので電圧変動はすぐに収まるわけだから、その間だけリセットの猶予があれば良いってことさ。
先輩A
そのマイコンの入力電圧の変動が安定するまでの猶予をどう作るかだよね。つまり、「遊び」をどう作るかなんだよ。先に話した解除遅延時間というのは時間での「遊び」だよね。それに対してヒステリシス幅というのは電圧での「遊び」ってこと。
「遊び」は1つあれば十分だから遅延時間内蔵タイプのリセットICにはヒステリシス幅がないものがあるってわけさ。
下図はあくまでもイメージなんだけど、左が「遊び」がないため電圧変動に敏感に反応してリセットと解除を繰り返している場合、真ん中がヒステリシスがある場合、右が解除遅延時間がある場合だよ。
図7: ヒステリシス幅と解除遅延時間
新人B
そういうことか! でも、ヒステリシス幅がないのは内部カウンター型だけのような気がしますけど。
先輩A
それはそうだよ。だって外付けコンデンサ型はコンデンサにチャージされた分だけ遅延時間になるわけだよね。電圧が暴れてしまってリセット、解除、リセット、…… ってなるとコンデンサに十分にチャージできないよね。そうすると遅延時間が足りなくなってしまうリスクがあるんだ。それだと「遊び」にならないよね。だから、もう1つの「遊び」であるヒステリシス幅がしっかり入っているってわけなんだ。
図8: 外付けコンデンサ型の解除遅延時間のイメージ (CDは外付けコンデンサへのチャージ)
新人B
よくわかりました。
ありがとうございました。
先輩A
次はちょっと変わったリセットICの話をしよう。
新人B
それは……、またの機会にお願いします。
あとがき
我々の製品がお役立ちできるような紹介ブログの第14回目です。
本記事で気になったことがあれば何なりとこちらからお問い合わせください。
※ 過去の「教えて先輩!」シリーズ記事はこちら:
第1回: 太陽電池だけでは朝まで動き続けないんです・・
第2回: 携帯機器のスリープ時に電池がどんどん消耗するんです…
第3回: バックアップ電源切換回路が面倒くさいんです。
第4回:AEC-Q100ってなんですか?
第5回:サンプルをこっそり手にいれたいんです。
第6回:こんなリセットICってどうやって使うのですか?(機能安全って?)
第7回:携帯機器がフリーズしても、リセットできないんです~!
第8回:ボタンを触らずに操作できる(ボタンのタッチレス化)ってどうやってるの?
第9回:スイッチICって何かメリットがあるんですか?
第10回:半導体の品質保証って何ですか?(バスタブカーブって?)
第11回:そもそもフリッカー(チラつき)を出さなきゃ良いんじゃない?~ひと味ちがうリニア調光のススメ~
第12回:太陽電池だけで動くIoTエッジ端末評価ボードって知ってる?~環境センサーボードがバージョンアップ~
第13回:半導体部品の上手な取り外し方 ~やさしく取り外さないと後が大変!~
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