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半導体産業の水平分業化 ~製品別、国別の水平分業の実態(後編:国別)

division of labor

前回、実は「すべての製品で水平分業が進んでいるわけではありません」というお話をしましたが、今回は「すべての国で水平分業が進んでいるわけではありません」というお話です。

第18回 半導体産業の水平分業化
~製品別、国別の水平分業の実態(後編:国別)~

 

すべての国で水平分業が進んでいるわけではありません

前回は製品別の水平分業の程度を見ましたが、今度は国別の水平分業の程度を見てみましょう。

水平分業が進んでると言っても、それぞれの国の中で同じように水平分業が進んでいるかというとそういうわけではありません。第15回第16回でお話ししたようにファウンドリとOSATはアジアに偏っています。また第13回でお話ししたように売上上位のファブレスは米国と台湾の企業で、ファブレスの売上シェアは米国と台湾に中国を加えた3か国の企業で100%近くを占めます。以下国別に見ていきましょう。

2021年のファブレス半導体企業の売上シェア(IC Insights社):米国と台湾と中国で98%(米国68/台湾21/中国9%)、一方日本・韓国・欧州のシェアは1%かそれ未満。なおこの調査をしたIC Insights社は創業者の引退により2022年末でクローズしています。

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水平分業化の程度は国によって様々

 

 

~半導体後発国~

まず半導体後発国から見ていきます。

 

(1)台湾

台湾はファウンドリ発祥の国であり、TrendForce社のデータによれば、2023年第2四半期のファウンドリ売上ランキングTOP10には圧倒的なシェア1位のTSMCTOP5の常連のUMCなど台湾企業が4社入っており、台湾企業のシェアは約3分の2を占めます。またIDC社のデータによれば、2022年のOSAT売上ランキングTOP10には1位のASEなど6社の台湾企業が入っています。国内で水平分業の体制が整っていて、国内ですべての工程を完結することが可能な唯一の国だと思われます。この水平分業体制を利用するファブレスの売上シェアも米国に次いで多く、第13回で紹介した2021年の半導体企業の売り上げTOP10に入っているメディアテックも台湾企業です。

一方売上ランキングで上位に入るIDMはなく、IDMの存在感は薄いと言えます。DRAMなどメモリーを作るIDMは存在していますが、シェアは低いです。

 

(2)韓国

一方、韓国は台湾と同じく後発国ですが、半導体企業売上TOP10の常連で韓国の2大半導体企業であるサムスンとSKハイニックスはともにIDMです。サムスンはIDMですがファウンドリ事業もやっていて、ファウンドリの売上ランキングでは2位にランクされています。またDB HiTekという売上ランキングTOP10に入ることもある有力なファウンドリも存在します。しかし売上ランキング上位に入るような有力なファブレスはなく、水平分業の世界での存在感は大きくありません。サムスンとSKハイニックスという2IDMの存在が圧倒的に大きい国です。ただ韓国も政府がファブレスの育成を積極的に推進しようとしています。

 

(3)中国

中国の半導体産業の歴史は、調べてみたところ意外に古いことが分かりましたが、本格的に発展し始めたのは90年代以降なので、後発国と考えてもいいと思います。当初はIDMの育成を目指していましたが、1990年代末にファウンドリの育成に方針転換しています。その結果、国内のファウンドリも育ってきており、TrendForce社の2023年第2四半期のファウンドリ売上ランキングTOP10の中位以降に3社がランクインしています。またOSATについても、IDC社の2022OSAT売上ランキングTOP103社がランクインしています。どちらもランクインしている会社数は台湾に次ぎます。国内である程度水平分業の体制が整っていると言えると思います。ただし最先端の微細プロセスを提供できるファウンドリは国内に存在しないので、TSMCなどの国外の企業に頼らざるを得ません。これらのファウンドリやOSATを利用するファブレス半導体企業の数は、2020年時点で、2000社を超えたと言われており、上述のようにファブレス半導体企業の売上シェアも米国、台湾に次ぎます。

※ただし、202311月時点で、米国の対中半導体輸出規制により中国企業がTSMC等に最先端半導体の製造を委託することができません。

なお中国はDRAMNANDフラッシュなどのメモリーの国産化も目指していますが、国産化を目指している企業はファブレスではなくIDMです。前編で述べたように、これらの製品の場合はやはりIDMとなります。その他にもIDMは存在しますが、売上ランキング上位に入るような有力なIDMは現時点では存在していません。

 

《半導体先発国》

次に半導体先発国を見ていきましょう。

 

(1)米国

まず米国の場合は、すでに第13回で述べたように有力なファブレス半導体企業を多数抱えますが、AMDから分離された製造部門を起源とするグローバルファウンドリーズという売上ランキングTOP5に入るファウンドリがあるものの、その製品の生産は台湾を中心とするアジアのファウンドリやOSATに大きく依存しています。国内での分業ではなく、国際的な分業の上に成り立っていると言えます。ただしIDMの存在感が薄いわけではありません。半導体産業発祥の地であり、インテルやTIなど伝統ある有力なIDMが存在し、マイクロンを含めたIDM3社が売上TOP10に入っています。強いファブレスと強いIDMが併存しています。

OSATの売上ランキング2位のAmkorは米国の会社ですが、製造拠点はすべてアジアです。日本にも製造拠点がありますが、それらは日本のIDMの後工程工場だったものです。第16回でお話したように、もともとはANAMという韓国の会社の米国拠点でした。

 

(2)欧州

欧州の場合は、米国と違って、売上高上位の有力半導体企業はIDMです。調査会社のOmdiaが発表している2022年の売上ランキングTOP2012位から14位の3社が欧州の企業ですが3社ともIDMです。ファブレスについては、2010年に4%あった欧州ファブレス企業の売上シェアが、2021年には1%未満になっています(IC Insights社のデータ)。有力なファブレス企業が買収されたためと思われます。X-FABという有力なファウンドリが存在しますが、水平分業の世界での存在感は、売上規模の点では米・台・中に比べてかなり劣ります。

※買収された欧州の有力ファブレス企業:売上ランキング15位程度までに入っていた企業としては、ダイアログ(Dialog)、CSRが挙げられます。ダイアログは2021年にルネサスに、CSR2015年にクアルコム(Qualcomm)に買収されました。両社とも英国の企業です。また2023年にルネサスが買収を発表したパントロニクス(Panthronicsはオーストリア、シーカンス(Sequans)はフランスのファブレス企業です。

ただし陰の主役と言っても過言ではないファブレス企業が欧州に存在しますので紹介しておきましょう。それはアーム(Arm)という英国企業です。ソフトバンクが2016年に買収し当時日本でもニュースになりましたし、今度は上場するということで再びニュースになりました(2023年9月14NASDAQに上場しました)ので、ご存じの方も多いかもしれません。自社製品はありませんがプロセッサの技術を提供しているファブレスです。多数の製品にアームのプロセッサが搭載されており、例えば、スマホ用のSoCのほとんどにアームが搭載されています。

 

(3)日本

日本も欧州と同様に有力半導体企業はすべてIDMです。ファブレスは存在しますが数は少なく世界的に存在感のある企業は少ないです。20228月に最先端微細プロセスのファウンドリを目指すRapidus(ラピダス)の設立が発表されましたが、現時点では最先端微細プロセスのファウンドリはなく海外頼みです。水平分業の世界では欧州以上に存在感が薄い状況ですが、今後の展開には期待したいと思います。

 

 以上のように水平分業の度合いは国によって様々ですが、自国内の水平分業体制が整っていて、ほぼすべての半導体製品を自国内のファウンドリとOSATを使って生産できると言えるのは台湾だけだと言っていいと思います。半導体の水平分業は国際分業の上に成り立っており、最初にも述べたように、生産は台湾を中心としたアジアに大きく依存しています。

※台湾も半導体製造装置、材料、設計ツールは自国内で賄うことはできず、米国や日本や欧州の企業に頼っていますので、結局そこまで広げるとすべてを自国内で完結できる国はありません。

 

 ただし、2021年から2022年にかけて半導体不足が顕在化したことがきっかけで(だったと思います)、半導体が重要戦略物資であるとの認識が高まったことと、地政学的な緊張の高まりで、半導体生産のアジア、特に台湾依存の大きさが問題視され、経済安全保障という観点から生産の国内回帰の動きが出ています。Rapidusの設立もこれに関連した動きと考えられます。しかしながら、現時点で先端の微細プロセスの生産を担える専業ファウンドリはTSMCしかなく、TSMCの誘致合戦、誘致のための補助金合戦が展開されています。202311月時点で、米国と日本ではすでに工場建設中で、欧州での工場建設も発表されました。ただ、それらの工場が稼働したとしても大部分の先端微細プロセスの生産が台湾で行われることには変わりはありません。

AdobeStock_94814839a地政学的な緊張が増している

 

私はまさかTSMCが日本に工場を作るとは思わなかったので意外でした。政府の補助金等の支援策の後押しと重要な顧客の存在がなければ今回の決定はなかったと思いますが、上述のような世界の潮流の変化(経済安全保障という概念のクローズアップ)が大きかったと思います。そもそもこのような潮流の変化がなければ今回のような政府の支援はなかったと考えられます。半導体関係者の中ではTSMCが本当に日本に工場を作るとは思っていなかった人も少なくないのではないでしょうか。

 

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TSMCが初めて日本に設置する工場「JASM(tsmc Fab23)」の建設現場(2022年12月、熊本)

 

TSMCWeb Siteによれば「2022年のTSMC全体のウェーハ製造能力は、子会社を合わせて、年間1,500万枚 (12インチ換算) 」なので(2023111日時点)、月間の生産能力は125万枚/月になります。JASMTSMCの熊本工場)の生産能力は5.5万枚/月でTSMC全体のキャパの4%程度なので大したことはないともいえますが、TSMCの売り上げに占める日本の(金額)シェアが2023年第3四半期で6%であることを考えると、日本にとってはそれなりの規模であると思われます。

 

日本の半導体産業は水平分業に対応できなかったから凋落したのか?

日本の半導体産業凋落の原因として水平分業に対応できなかったということが挙げられることがあります。しかし本当にそうでしょうか?上述のように韓国の2大半導体企業であるサムスンとSKハイニックスは、どちらもIDMです。韓国の半導体産業は、水平分業に対応したから成功したわけではありません。そもそも半導体売上ランキングのTOP22022年のランキングでもIDMですし、TOP10の半分はIDMです。1980年代にDRAMで世界を席巻していた日本の企業は韓国の2社や米国のマイクロンに負けたわけですが、これは水平分業とは関係ない話です。米国のIDMであるインテルとTIも同様にDRAMで勝ち残ることができずDRAMから撤退しましたが、別の製品に切り換えて2023年現在でもIDMとして輝きを放っています。

ファウンドリは、第15回でお話ししたように、もともと台湾の国策とその時の台湾の状況から生まれたものであって、日本で生まれなかったのは仕方がないと思います。

また、日本の企業が水平分業を利用していないかと言えば、全くそういうことはありません。日本の代表的なIDMであるルネサスもある時期以降の微細プロセスはファウンドリを利用しています。水平分業を利用していることには違いはありません。当社を含めてその他の日本のIDMも、多くがファウンドリやOSATを利用しています。当社は2000年前後から海外のファウンドリやOSATを利用しています。また日本にもファブレス半導体企業はあり同様にファウンドリやOSATを利用しています。アイデアがあればファウンドリとOSATを使えば製品は作れます。これはどこの国の企業でも同じです。

第14回でお話しした1980年代に米国で起業したファブレスは、自分たちのアイデアを実現するために独立しただけ、あるいは起業しただけで、半導体企業が分業したわけではありません。私の知っている限りでは、売上ランキング上位のIDMで実際に製造部門を分離してファブレスになったのはAMDくらいだと思います。

以上のようなことを考えると、日本が水平分業に対応できなかったから凋落したというのは、あくまで私の個人的な見解ですが、やはりちょっと違うような気はします。

 

以上で半導体の大きなトレンドのお話を一旦終わります。まさか微細化、ウェーハ大口径化、水平分業化の話で18回まで行くとは思っていませんでした。調べれば調べるほどボリュームが膨張し、ここまで来てしまいました。お付き合いいただきありがとうございました。引き続き半導体関連の話題を取り上げていきますので、お付き合いの程お願いします。

 

次回は、前編で水平分業が進んでいる製品として紹介した「先端ロジック半導体」について少し詳しくお話しする予定です。

 

 

※過去の記事はこちら:
シリーズ:半導体の微細化
  第1回: 半導体の微細化 ムーアの法則とは
  第2回: 半導体の微細化と半導体プロセス
  第3回: 半導体の微細化と国際半導体技術ロードマップ
  第4回: 半導体の微細化と半導体ビジネス
  第5回: 半導体の微細化と半導体ビジネス その2
  第6回: 半導体の微細化と半導体デバイス
  第7回: 半導体の微細化 スケーリング則とは
  第8回: 半導体の微細化 スケーリング則の限界
  第9回: 半導体の微細化とアナログ回路
  第10回: Siウェーハの大口径化 ~ありふれた物質Si(シリコン)が主役になるまで~
  第11回: Siウェーハの大口径化(その2) ~Siウェーハができるまで~
  第12回: Siウェーハの大口径化(その3) ~大口径化の理由と歴史~
  第13回: 半導体産業の水平分業化とファブレスの躍進
  第14
回: 半導体産業の水平分業化の歴史~ファブレス半導体企業の誕生~
  第15回: 半導体産業の水平分業化の歴史~ファウンドリの誕生~
  第16回: 半導体産業の水平分業化 ~ファウンドリは下請けか?~
  第17回: 半導体産業の水平分業化 ~製品別、国別の水平分業の実態(前編)~

半導体産業の水平分業化 ~製品別、国別の水平分業の実態(前編)~

About Author

吉田 典生
吉田 典生

1981年 (株)リコー入社、リコー半導体事業立ち上げに参画しその後約40年にわたり半導体ビジネスに携わる。 技術者およびマネージャとして半導体前工程の製造技術・装置技術・プロダクト技術、研究所での製造プロセス開発、アジア各国での前工程生産外注立ち上げを経験。 その後シニアマネージャとして半導体後工程も含む生産技術全般、さらに生産管理や購買も含む生産全般のマネジメントを担当。 また業界団体SEMIの主催するセミナーにおいて20年以上にわたりエッチング技術の講師を担当。 日清紡マイクロデバイス(旧リコー電子デバイス)株式会社として分社化した今は、営業戦略全般のアドバイスも行いながら、“会社の歴史の語り部”という役割も担う。

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