今回はリセットIC(ボルテージディテクタ、電圧検出器)って何?という、お話の続きです。
ある日、入社3年目の新人B君がベテラン社員の先輩Aさんにつかまってしまいました……
2024年7月30日 公開
教えて先輩!シリーズ 第15回
おすすめのリセットIC(ボルテージディテクタ、電圧検出器) ちょっとユニークだけど役に立つ!
先輩A
さあ、ちょっと変わったリセットIC(ボルテージディテクタ、電圧検出器)の話をしよう。
新人B
いや、普通のリセットICでお腹いっぱいです……
先輩A
まずは上下監視タイプからいこうか。
新人B
……
リセットICの電圧監視は下方向だけで良い?
先輩A
上下監視って、リセットICは下しか監視しなくて良いと思っていないかい?
新人B
……。それはそうですよ。マイコンは最低動作電圧を下回ったら正常動作できないんですから。
先輩A
でも、マイコンというかICには動作電圧範囲っていうのがある。それには下限だけではなくて上限もあるわけだよ。
新人B
そうですけど、それってリニアレギュレータやスイッチングレギュレータのOVP(Over Voltage Protection: 過電圧保護回路)でケアされていますよね?
先輩A
でも、過電圧でレギュレータICの出力がオーバーシュートしたらどうする?
新人B
それは……動作範囲以上の電圧がマイコンにかかって……マイコンが誤動作したり最悪は壊れる恐れがありますね。
上下監視タイプのリセットICがある
先輩A
というわけで、電圧上昇を検知してリセットをかけるボルテージディテクタがあるんだ。
新人B
え~っと。
先輩A
まあ、マイコンには当然ながら電圧低下によっても誤動作、暴走のリスクはあるから、電圧低下と電圧上昇の両方を監視するんだ。上下監視タイプ、ウィンドウタイプなんて呼ばれているよ。ウィンドウ(監視窓)から外れた電圧に対してリセット信号を出すからね。下図のR3152シリーズがウィンドウ・ボルテージディテクタなんだ。
図1: 上下監視タイプ(ウィンドウ・ボルテージディテクタ)
新人B
これは前段のDC/DCコンバータ(スイッチングレギュレータ)やLDO(リニアレギュレータ)の出力を監視しているわけですか。+B 12Vって書いてありますからカーバッテリーですよね。あっ、リセット端子が過電圧検出(OV)と低電圧検出(UV)の2つあってプルアップされているのでNMOSオープンドレイン出力ですね。遅延時間設定用の外付けコンデンサがあります。
先輩A
タイミングチャートはこんな感じ。電圧低下でも電圧上昇でもリセット信号"L"が出ているよね。
図2: 上下監視タイプ(ウィンドウ・ボルテージディテクタ)のタイミングチャート
新人B
確かに。でも、タイミングチャートには解除遅延時間がないですね~。
先輩A
あれ?ホントだね。まあ、模式図だから。このR3152シリーズは最大入力が42Vなんだよ。検出電圧は過電圧検出(OV)が 1.1V~5.9V(0.01V単位)、低電圧検出(UV)が 1.0V~4.8V(0.01V単位)なんだよ。R3152シリーズは自動車関係や産業機器関係に使われることが多いかな。機能安全とか高信頼性が求められるシステムだからね。ウィンドウタイプの製品は他にもたくさんあるんだよ。
先輩A
ああ、そうだ。余談なんだけど、ウィンドウタイプって検出電圧が2つ、解除電圧が2つあるよね。最近のマイコンって低電圧化が進んでいるから動作電圧範囲にこの4つの電圧を入れこむのって大変なんだよ。
新人B
はい?
先輩A
つまり、普通に作るとこんな感じになってしまうんだ。下図の説明をすると、真ん中のピンク色の3.3V±1.0%というのがリニアレギュレータの出力電圧範囲だよ。結構精度が良いのを使っているよね。そこに検出電圧が3.55Vと3.08Vのボルテージディテクタ(リセットIC)で上下監視をしたとするとどうなるかってことなんだ。結果的にマイコンの動作電圧範囲である3.3V±5%を上も下もオーバーしちゃっているんだよ。
図3: 従来技術でウィンドウタイプのリセットICを作った場合
新人B
確かに。って、3.3V±0.3V(3.0V~3.6V)のマイコンでも上がはみ出してダメじゃないですか……。そうか、リセットICを2個使えば上下監視ができるかとも思ったのですが、低電圧のマイコンの場合は電圧のばらつきを考慮すると無理なんですね。というか、ヒステリシス幅も大きいってことですか。カタログスペックでは高精度をうたっていても温度ばらつきまで含めるとこんな精度になっちゃうんですね。
先輩A
だから、ウィンドウタイプのリセットICは高精度化されているんだ。こんな感じにね。検出電圧精度もヒステリシス幅も全温度範囲で高精度なんだよ。
図4: R3152シリーズの高精度化技術で低電圧マイコンでもウィンドウタイプが使用可能に
新人B
なるほど。実はすごいんですね。
高電圧を直接検知可能
先輩A
さて、次の変わったリセットICは高電圧を直接検知できるタイプだね。
新人B
それは知ってます。抵抗分圧で電圧を下げる必要がないってやつですよね。抵抗へのリーク電流がないので省エネですし。
自動車など高い電圧のバッテリー駆動機器に最適なんですよね。
図5: 高電圧を直接監視可能なタイプ
先輩A
そうだね。産業機器でも使われているかな。R3160シリーズは最大60Vまで入力可能で48Vまで検出可能だからマイルドハイブリッドカーの48Vバッテリーにも対応できるってわけさ。このタイプにCMOS出力タイプが出たって知ってる?
CMOS出力タイプも出た
新人B
えっ?NMOSオープンドレイン出力(Nch. オープンドレイン出力)じゃないんですか?
先輩A
NV3600シリーズとNV3601シリーズだよ。NV3600は高耐圧のSENSE端子分離型なんだけどCMOS出力があるんだ。これだとプルアップ抵抗のリーク電流もないのでさらに省エネになるわけだよ。NV3601は加えてウィンドウタイプなんだよ。どちらもSENSE端子で42Vまで検出可能なんだ。
新人B
結構便利かもしれないですね。
ヒステリシス幅を変更可能
先輩A
それにヒステリシス幅を変更できるタイプがあるんだ。
図6: ヒステリシス幅可変タイプ(検出遅延時間・解除遅延時間も外付けコンデンサで可変)
新人B
ヒステリシスってリセットICの電圧の「遊び」ですよね。変更できるのは良いのかもしれないですけど、そこまで必要でしょうか?
先輩A
遅延回路内蔵型があるからね。「遊び」である遅延時間を外付けコンデンサで自由に設定できたら充分と思うかもしれないね。R3150シリーズはそれに加えてヒステリシス幅も設定できるんだよ。厳密には検出電圧と解除電圧の組合せを選択指定するんだけどね。つまり、セミカスタム的な感じかな。
新人B
なるほど、NJU7295シリーズもヒステリシス幅を外部設定できますよね。こちらはVIN端子とHYS端子の間に抵抗をいれることで設定するみたいです。
先輩A
話を戻すと、解除遅延時間という「遊び」で充分ではないかという点については、さっきのウィンドウタイプの例を見れば理由がわかるのではないかな?リセットICの検出電圧、解除電圧には製造ばらつきや周囲温度によるばらつきがあるんだよ。これは仕方ないよね。そして、普通のリセットICの解除電圧、つまり、ヒステリシス幅はICメーカーが設定しているわけだよ。それに製造ばらつきや温度ばらつきなどを考慮するとマイコンの動作電圧範囲に収まらないというケースがあったりするわけ。
新人B
なるほど。だから、ヒステリシスなしの製品があったりするんですね。
先輩A
そうだね。でも、ヒステリシス幅は小さくても欲しいってケースがあるわけだよ。そういうケースの場合は解除電圧を自分で選びたいってなるわけ。そういう用途にはR3150シリーズやNJU7295シリーズは持ってこいってわけだよ。
新人B
なるほど。わかりました。
先輩A
このタイプには遅延時間も設定できる製品もあるので設計者の思うままに使えるんだ。解除遅延時間だけでなく検出遅延時間も設定できるからね。さっきの2製品以外にもあるから気になったら下のリンクで確認してね。
自己診断機能を持ったリセットIC
先輩A
あとね、自己診断機能を持っている製品があるんだ。
新人B
自分で正常動作しているかを確認するのですか?
先輩A
まあ、そうだね。要は機能安全対応ということなんだけど、リセットIC自身が故障しているか否かを判断するのではないんだ。
新人B
ですよね。壊れていたら自分で診断できないです。
先輩A
何をしているかというと、マニュアルリセット端子(下図ではTEST端子)にパルス信号を入力して、リセット信号出力端子から同じ信号が出力された正常、というようなテストができるんだよ。なので、常時チェックしているわけではないんだ。
パソコンとかにもあると思うんだけど、起動時にセルフチェックを行うって感じかな。動作中に変なパルス信号をリセット信号出力端子から出力したらマイコンが「?」ってなるからね。
図7: 自己診断機能
新人B
そうなんですね。リセットICが故障することもあるわけですから、故障を前提としたこういう機能安全対応って大事ですよね。
当然ですけど、二重設計とかのフェールセーフ設計と合わせて利用すべきってことですよね。
先輩A
そのとおり。わかっているじゃないか。
新人B
はい。私だっていろいろ勉強していますから。
マニュアルリセット機能
先輩A
今の話に出てきたマニュアルリセットってわかるかな。
新人B
はい。検出している電圧に関わらず強制的にリセットを行うことができるんですよね。
図8: マニュアルリセット(MR端子)
先輩A
そうそう。今は少なくなったけど昔の携帯機器には小さなリセット用の穴が開いていて、そこにクリップを伸ばして先を突っ込むとリセットできたんだよ。まあ、携帯機器がフリーズした時の緊急リセットなんだけどね。そういう場合に使うんだよ。
新人B
はい。そういえば、リセットタイマーICっていうのもありますよね。同じなんですか?
先輩A
そうねえ。基本は同じだけど、リセットタイマーICの方が高機能だよ。キーコンビネーション・リセットに対応したりしているからね。
新人B
はい?
先輩A
最近の携帯機器は防水になったりしているからリセット用のピンホールがないんだ。だから、強制リセットする場合は「2つのボタンを何秒以上同時に押す」なんてことになっているんだよ。そういうことに特化しているのがリセットタイマーICなんだ。
新人B
なるほどです。
ありがとうございました。
できれば質問した時だけ答えていただけるとよいのですけど……
ボルテージディテクタ(リセットIC)ってどうやって動いている?
先輩A
まあ、そう言うなって。
ところで、ボルテージディテクタってどうやって動いているかわかるかな?
新人B
はい?(言ったそばから……)
先輩A
ブロック図を見てみようか。
図9: CMOS出力のリセットIC ブロック図
新人B
中にオペアンプが入っているんですよね?何を増幅しているんですか?
中にコンパレータが入っている
先輩A
それはコンパレータ(比較器)だよ。記号は同じなんだけどね。真ん中のマークはコンパレータにヒステリシスがあるってことを示しているんだよ。+電源とー電源は省略されているね。コンパレータは+入力とー入力を持っていて、+入力の電圧がー入力の電圧より高ければVDD=”H”信号を出力するんだよ。逆の場合はGND=”L”信号を出力するわけさ。
新人B
はあ。
先輩A
ブロック図を見ればわかると思うけど基本的なボルテージディテクタは電源端子電圧(VDD)と基準電圧源(Vref: Voltage Reference)の電圧を比較しているんだ。ボルテージディテクタは元々、電源(VDD)、グラウンド(GND)、出力(OUT)の3端子だったから電源端子とSENSE端子は兼用だったわけさ。
新人B
なるほど。だから、そうじゃない製品をSENSE端子分離型なんて呼ぶんですね。
先輩A
たぶんね。
話を戻すと、基準電圧源はコンパレータの+入力につながっていて、電源端子(兼SENSE端子)はー入力につながっているよね。つまり、基準電圧源の電圧よりも検出電圧(電源電圧)が低くなれば、GND電位の”L”が出力端子から出力されるんだよ。これがリセット信号だよね。
新人B
逆に基準電圧源の電圧よりも検出電圧が高い状態ならば、VDD電位の”H”が出力端子から出力されているってことですね。
先輩A
そうだよ。厳密には基準電圧源=検出電圧ではないんだけど。基本動作には関係ないから割愛するけどね。
ちなみに、このあいだ説明したリセット信号が”H”の製品はコンパレータの入力端子が逆になっているんだ。基準電圧源はコンパレータのー入力につながっていて、電源端子(兼SENSE端子)は+入子につながっているんだよね。
図10: "H"リセット、NMOSオープンドレイン出力のリセットIC ブロック図
新人B
なるほど。簡単ですね。
ありがとうございました。これでホントに終わりですよね……
あとがき
我々の製品がお役立ちできるような紹介ブログの第15回目です。
本記事で気になったことがあれば何なりとこちらからお問い合わせください。
※ 「教えて先輩!」シリーズはほかにもあります。
第1回:太陽電池だけでは朝まで動き続けないんです・・
第2回:携帯機器のスリープ時に電池がどんどん消耗するんです…
第3回:バックアップ電源切換回路が面倒くさいんです。
第4回:AEC-Q100ってなんですか?
第5回:サンプルをこっそり手にいれたいんです。
第6回:こんなリセットICってどうやって使うのですか?(機能安全って?)
第7回:携帯機器がフリーズしても、リセットできないんです~!
第8回:ボタンを触らずに操作できる(ボタンのタッチレス化)ってどうやってるの?
第9回:スイッチICって何かメリットがあるんですか?
第10回:半導体の品質保証って何ですか?(バスタブカーブって?)
第11回:そもそもフリッカー(チラつき)を出さなきゃ良いんじゃない?~ひと味ちがうリニア調光のススメ~
第12回:太陽電池だけで動くIoTエッジ端末評価ボードって知ってる?~環境センサーボードがバージョンアップ~
第13回:半導体部品の上手な取り外し方 ~やさしく取り外さないと後が大変!~
第14回:リセットIC (ボルテージディテクタ、電圧検出器)って何ですか?~ 基本をイチから学んでみよう!~
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