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半導体産業の微細化と水平分業化(番外編)~先端ロジック半導体の起源と定義と種類~

先端logic半導体

前々回、いろいろある半導体製品の中で先端ロジック半導体がもっとも水平分業が進んでいるというお話をしました。先端ロジック半導体については簡単に説明しましたが、定義があいまいな似たような言葉が複数あり私自身がはっきり理解できていなかったので、改めて調べてみました。ここではその結果をお話ししましょう。

2024年08月28日 公開

第19回 半導体産業の水平分業化(番外編)
~先端ロジック半導体の起源と定義と種類~

 

ロジック半導体の起源 ~論理学とロジック半導体~

先端ロジック半導体について調べているうちに、論理学まで遡ってしまいました。まずはロジック半導体の起源からお話しします。

 

英語のロジック(logic)に対応する日本語として普通に思い浮かぶのは論理ですが、調べてみるとlogicには論理学という意味もあることがわかります。論理学は人間の思考を対象とする学問です。理詰めの思考、推論の方法を研究する学問が論理学です。

 

論理学は紀元前に哲学の一部門としてギリシャで誕生したと言われています。中世には停滞期があったとされていますが、19世紀になって数理論理学(記号論理学ともいう)というものが発展し、論理学を数学的に扱えるようになります。

 

数理論理学は命題の真偽を1と0で表してそれらの関係を数学的に記述したものです。通常の計算における四則演算に相当するものが論理演算と呼ばれます。基本的な論理演算はAND(日本語では「かつ」)、OR(日本語では「または」)、NOT(否定)の3つです。ANDは論理積と呼ばれ掛け算に相当しORは論理和と呼ばれ足し算に相当します。

 

そのような論理演算を、スイッチのオンとオフを1と0に対応させることで、電気回路(スイッチ)で表現できることが1930年代に明らかにされました(スイッチング理論)。トランジスタ発明の10年以上前の出来事なので、スイッチとしてはリレーが使われました。今から考えると当たり前のような気もしますが、これは大発見なんだそうです。これにより、数学とつながった論理学が電気ともつながりました。

 

※スイッチング理論の創始者は「情報理論の父」と呼ばれる米国のクロード・シャノンとされていますが、日本の中嶋 章らがシャノンの論文(修士論文1937年、論文誌掲載1938年)の少し前に同内容の論文を発表しています。

理論1論理学と数学と電気のつながり

 

その電気回路(論理回路)を集積回路(IC)で実現したものがロジック半導体です。トランジスタ発明以降には、トランジスタを使って論理演算を電子回路化していましたが、1950年代末に集積回路が発明されると、1960年代の初めには集積回路として実現されます。これが汎用ロジックICあるいは標準ロジックICと呼ばれるものです。現在でも製造販売されています。

理論3論理回路の集積回路化によるロジック半導体の実現

 

 

ここで重要なのは数字を二進数で表せば、すなわち1と0であらわせば、論理演算で四則演算が可能になるということです。二つの数字の足し算とは、二つの数字の組合せに対して一つの数字を対応させるという処理をすることです(以下に表を示す)。これは論理学で真理値表と言われているものと同じです。すべての真理値表は基本的な論理演算の組合せで表現できます。すなわち足し算を論理演算で表現できます。引き算、掛け算、割り算は足し算を使ってできますので、四則演算を論理演算で表現することができます。上述のように論理演算は集積回路で実現することができます。要するに計算機をロジック半導体で作ることができます。

2進数3二進数の足し算の例

 

この二進数の足し算は、以下のように(not A and B) or (A and not B)という論理演算で一桁目を表現することができ、繰上りはA and Bになります。

2進数4論理演算

 

 

ロジック半導体の定義と種類

前節でも述べたように、論理回路を集積回路(IC)で実現したものがロジック半導体です。入力に対して何らかの論理演算をした結果を出力する集積回路(IC)です。集積度の大小は問いません。微細化の進展で集積度が向上してたくさんの素子を集積できるようになりましたが、基本的な論理回路の組合せであることには変わりはありません。

 

ロジック半導体というと、CPUGPUやプロセッサなどと呼ばれるパソコンやスマホ等の電子機器に搭載される頭脳の役割を担う半導体のことを言うと説明されることもありますが、正確に言うとそれはちょっと違います。確かにそれはロジック半導体ですが、それだけがロジック半導体ではありません。「CPUGPUやプロセッサなどと呼ばれるパソコンやスマホ等の電子機器に搭載される頭脳の役割を担う半導体はロジック半導体である」は正しい命題ですが、「ロジック半導体は、CPUGPUやプロセッサなどと呼ばれるパソコンやスマホ等の電子機器に搭載される頭脳の役割を担う半導体のことである」は正しくありません。逆は必ずしも真ならずです。「論理的」には間違っています。まあ、現時点で最も話題になっているのはCPUGPUやプロセッサなどと呼ばれる半導体なのは間違いないので、わかったうえでそういう説明をされているのであろうと推察します。

 

最初に世の中に登場したロジック半導体は、前節でも述べた、1950年代末に集積回路が発明されて間もない1960年代に登場した標準ロジックICだと思われます。これは前述の基本的な論理演算のANDORNOTやそれらを組み合わせた集積度の低い汎用的な製品です。今から見ると集積度の低い製品ですが、当時はこれが最先端の製品だったと思います。この標準ロジックICは現在でも製造販売されています。

 

その後の集積度の向上により、上記の標準ロジックICで構成していた各機器固有の論理回路をひとつ(あるいは複数)の大規模な集積回路(LSI)に集積したものが登場します。例えば第4回でお話しした電卓用のLSIなどがその例です。これは機器ごとに専用のロジック半導体を作ることになるので、製品の種類は極端に言うと無限に存在することになります。

 

このような無限に存在する専用のロジック半導体を効率よく開発する手法が開発される一方で、専用のロジック半導体を開発するのではなく、コンピューターの手法をロジック半導体に展開して、ソフトウェア(プログラム)を変更することで多様な用途に対応させることができる汎用のロジック半導体が開発されます。これがマイクロプロセッサです。

 

ロジック半導体には大雑把に言って、汎用の標準ロジックICと専用のロジック半導体とプログラムでカスタマイズする汎用のロジック半導体(マイクロプロセッサ)があると言ってもいいと思います。もう少し詳しく言うと、専用のロジック半導体には特定の機器専用の半導体と特定の用途専用の半導体の二種類があります。

 

ただし微細化が進みさらなる高集積化が可能になると上述のマイクロプロセッサと専用のロジック半導体を同一チップ上に搭載した製品が出てきますし、特定の用途向けのマイクロプロセッサが出てきたりしていますので、すっきりした分類をするのはなかなか難しいですね。

 

CPUGPU、プロセッサ、マイクロプロセッサという言葉を定義せずに使っていますが、次回にこれらの言葉の説明を行います。

 

先端ロジック半導体

最近ニュースでもよく使われる言葉です。前述のように集積度の大小にかかわらず、論理回路を集積回路(IC)で実現したものがロジック半導体ですが、先端の製造技術、すなわち先端の微細プロセスで作られた高集積・高機能・高性能のロジック半導体のことを先端ロジック半導体と呼んでいると思われます。ただ先端と非先端の境目がはっきりと定義されているわけではありません。

※先端ロジック半導体について第18回では以下のように定義しています。
はっきりした定義はありませんが、ここでは先端微細プロセスを使うロジック半導体を指します。先端微細プロセス自体も決まった定義はありませんが、ここでは28nmプロセスあたりから先のプロセスを想定しています。28nmは量産開始後すでに10年程度の年月(2023年時点で)が経過しており、成熟プロセスと呼ばれることも多いですが、28nmプロセスの前後のプロセスから開発・量産の難易度が上がり自社生産をしていない大手IDMも多いので、ここでは先端と呼ぶことにします。

 

先端ロジック半導体関連でよく使われる言葉(製品名)をあげてみましょう。

プロセッサ、マイクロプロセッサ、CPUMPUGPUMCU(マイコン)、SoCなど。これらはすべてコンピューターと関係がある製品です。その他、第5回で説明したFPGA(の大規模なもの)や時期話題になった仮想通貨(暗号資産)マイニング用の専用半導体ASIC)も先端ロジック半導体です。

 

※略称の説明
CPU: Central Processing Unit
MPU: Micro Processing Unit  
GPU: Graphics Processing Unit
MCU: Micro Controller Unit
SoC: System on a Chip
FPGA: Field Programable Gate Array
ASIC: Application Specific Integrated Circuit

 

では、今回はここまでにして、次回はもっとも適用範囲が広いと思われるプロセッサという言葉から順番に見ていきましょう。

 

※過去の記事はこちら:
シリーズ:半導体の微細化
  第1回: 半導体の微細化 ムーアの法則とは
  第2回: 半導体の微細化と半導体プロセス
  第3回: 半導体の微細化と国際半導体技術ロードマップ
  第4回: 半導体の微細化と半導体ビジネス
  第5回: 半導体の微細化と半導体ビジネス その2
  第6回: 半導体の微細化と半導体デバイス
  第7回: 半導体の微細化 スケーリング則とは
  第8回: 半導体の微細化 スケーリング則の限界
  第9回: 半導体の微細化とアナログ回路
  第10回: Siウェーハの大口径化 ~ありふれた物質Si(シリコン)が主役になるまで~
  第11回: Siウェーハの大口径化(その2) ~Siウェーハができるまで~
  第12回: Siウェーハの大口径化(その3) ~大口径化の理由と歴史~
  第13回: 半導体産業の水平分業化とファブレスの躍進
  第14
回: 半導体産業の水平分業化の歴史~ファブレス半導体企業の誕生~
  第15回: 半導体産業の水平分業化の歴史~ファウンドリの誕生~
  第16回: 半導体産業の水平分業化 ~ファウンドリは下請けか?~
  第17回: 半導体産業の水平分業化 ~製品別、国別の水平分業の実態(前編)~
  第18回: 半導体産業の水平分業化 ~製品別、国別の水平分業の実態(後編:国別)~

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About Author

吉田 典生
吉田 典生

1981年 (株)リコー入社、リコー半導体事業立ち上げに参画しその後約40年にわたり半導体ビジネスに携わる。 技術者およびマネージャとして半導体前工程の製造技術・装置技術・プロダクト技術、研究所での製造プロセス開発、アジア各国での前工程生産外注立ち上げを経験。 その後シニアマネージャとして半導体後工程も含む生産技術全般、さらに生産管理や購買も含む生産全般のマネジメントを担当。 また業界団体SEMIの主催するセミナーにおいて20年以上にわたりエッチング技術の講師を担当。 日清紡マイクロデバイス(旧リコー電子デバイス)株式会社として分社化した今は、営業戦略全般のアドバイスも行いながら、“会社の歴史の語り部”という役割も担う。

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