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半導体の微細化と半導体ビジネス その2

半導体の微細化と半導体ビジネス_top_img

前回(第4回)は半導体産業立ち上げ時期(~1970年代前半)のお話をしましたが、今回は現在に時を戻し最先端微細プロセスのビジネス関連の話をしましょう。

※過去の記事はこちら:
  第1回: 半導体の微細化 ムーアの法則とは
  第2回: 半導体の微細化と半導体プロセス
  第3回: 半導体の微細化と国際半導体技術ロードマップ
  第4回: 半導体の微細化と半導体ビジネス

 

 

第5回 半導体の微細化と半導体ビジネス その2
~最先端の微細化はお金がかかります~

 

電卓後の半導体産業を牽引する半導体製品の誕生

前回お話ししたように電卓用の1チップLSIができたのが1971年ですが、ちょうど同じ頃その後の高集積化・微細化を牽引する半導体製品が誕生していますので、最初にその話をしましょう。

まず前年の1970年にインテルが半導体メモリの代表製品であるDRAM(1Kビット)を世界で初めて製品化します。インテルは1968年の設立当初から半導体メモリの製品化を目指していたようです。当時の大型コンピュータの記憶装置は磁気コアメモリというものを使っていましたが、目論見通りDRAMによる置き換えが成功し、DRAM市場は拡大を続けDRAMの大容量化も進んでいきます。1980年代くらいまでは大型コンピュータが半導体の高集積化・微細化を牽引します。

そして電卓用の1チップLSIが開発されたのと同じ1971年には、これもインテルが、電卓用のLSIとしてマイクロプロセッサを開発します。1981年にIBMのPCに採用されたことがその後の大きな成長すなわち「Wintelの時代」につながっていきます。DRAMの競争に後れを取りシェアを落としたインテルは1985年にDRAMから撤退しマイクロプロセッサにリソースを集中することになります。

さらにインテルでは同じく1971年に世界最初のEPROMを製品化します。現在の半導体メモリ市場をDRAMと二分するフラッシュメモリは日本の技術者の発明ですが、源流はこのEPROMになります(文末補足説明①)。

 

 

最先端の微細プロセスはお金がかかる

半導体は装置産業と言われます。微細化するには新しい技術が必要ですが、そのためには新しい半導体製造装置(第2回で取り上げた露光装置が代表例)が必要です。半導体製造装置の値段は、1981年入社の私の記憶では、1980年代は高くても一台数千万円程度だったと思いますが(露光装置は億だったかもしれません)、そのうち億は当たり前になり、露光装置は特に高価で10億円以上が当たり前になり、最先端のEUV露光装置はなんと100億円以上するそうです。それを何台もそろえる必要があります。最先端の工場一つ作るのに軽く1000億円以上はかかります。最近のニュースを見ていると1兆円という数字も目にします。これではお金を持っている会社しか最先端の微細化はできませんね。

最先端の微細プロセスは複雑化して工程が長くなっており、その分コストも高くなります。複雑化の一例が、第2回のリソグラフィでお話ししたマルチパターニングです。製品の回路原版であるマスクの作成も難しくなり高価になります。当社が0.13μmを使い始めたころは、(その後安くなりましたが)マスク1セット(30枚以上)が数千万円以上しました。マスク1セットで家が1軒買えますし、一番高いマスクは1枚で数百万円はしたはずで高級外車が買える値段です。今の最先端微細プロセスでは、マスク1セットが多分億円の桁になると想像します。

微細プロセスの開発や生産だけではなく、微細プロセスを使って製品を開発するのもお金がかかるようになってしまいました。前回お話しした電卓の時代(約50年前)とは比較になりません。開発費が高すぎて、大量に流れる製品か相当高く売れる製品でなければペイしないですね。

 

 

高集積化・微細化を追求し続ける製品は?

ではそのようにお金のかかる最先端微細プロセスを使って2021年現在でも高集積化・微細化を追求し続けている半導体製品は何でしょうか?

高集積化を追求し続けている製品の代表格はメモリです。メモリは常にさらなる大容量化すなわち高集積化を目指しています。代表的な製品がDRAMとNAND型フラッシュメモリ(以降NANDフラッシュと略す)です。高集積化の手段としてはまず微細化すなわち二次元のサイズの縮小が追求されましたが、すでにどちらも単純な二次元パターンの微細化による大容量化が限界に達し三次元化が進んでいます。

かつてDRAMはテクノロジードライバーと呼ばれ、微細化技術を牽引していました。現在はすでに撤退していますが、最初にDRAMを製品化したインテルをはじめとする米国企業や日本の大手電機メーカーもDRAMを作っていました。(当社は違いますが大手では)まずDRAMを作り製造プロセスをある程度成熟させた後にそれ以外の製品を作っていたと思います。しかし米国企業は日本企業に負けて日本企業は韓国企業に負けて次々にDRAM市場から撤退し(文末補足説明②)、今では韓国の2社と米国のメモリ専業1社の上位3社で90%以上を占める寡占市場になってしまいました。プロセス自体もDRAMのプロセスとそれ以外の製品のプロセスがそれぞれ独自の進化をするようになりました。

DRAMは現在でも非常に遅いペースながらも微細化はされているようですが(文末補足説明③)、NANDフラッシュは数年前に微細化による高集積化がすでに限界に達し、メモリセルの縦方向の積層(3D NANDと呼ぶ、平屋建てが高層ビルになったようなイメージ)による高集積化に方向転換しています。したがってプロセス技術を示す指標としては○○nmではなく×××層という風に積層数で表しています。すでに100層以上になっていますが、これも無限に積層できるわけではないので限界はあると思います。

 

process_5_1DRAMが搭載されたメモリモジュール

 

メモリ以外で高集積化や微細化を追求している製品はプロセッサです。メモリはメモリ容量を追求しているのに対して、プロセッサは性能を追求します。第1回で高集積化の手段として微細化を挙げましたが、微細化はそれ以外にも高速化・低消費電力化というメリットがあります。したがって微細化で高速化・低消費電力化ができる限りは微細化するでしょう。ただし、こちらも単純な二次元パターンの微細化は限界に達しトレンドを維持するために色々な技術を付加していましたが、それだけでは維持できずトランジスタ構造を三次元化しています。プロセッサと言えば、以前はPC向けのプロセッサが代表的な製品でしたが、今はスマホ向けのプロセッサの方が数量も圧倒的に多く話題にもなります。

それ以外で今も最先端の微細化を追い続けている主要製品はFPGAくらいでしょうか?FPGAはField Programable Gate Arrayの略で、ユーザーがソフトウエアで論理回路を自由に組み替えられるというものです。データセンターでのデータ処理を担うサーバーではプロセッサだけでなくFPGAを組み合わせることが非常に有効のようです。インテルがFPGAの2強の1社のアルテラを2015年に買収し、インテルのライバルであるAMDがFPGAの2強のもう1社であるザイリンクスを買収しようとしていますが、こういうことも背景にあると思われます。

ファウンドリではFPGAを微細プロセス立ち上げ用の製品として使っていたと(確か15年くらい前に)聞いたような記憶があるのですが、特にここ最近はスマホ用のプロセッサが真っ先に最先端微細プロセスを使うようになりました。今、最も数量が流れる製品です。スマホはピーク時には年間15億台くらい売れていましたし2020年でも年間12~13億台程度は売れたと思われます。とてつもない数量ですね。アップルのスマホ用プロセッサの生産をTSMCが受注するかサムスンが受注するかがいつも話題になります。

※ファウンドリ:英語ではfoundry。半導体ウェーハプロセスの受託生産専門会社。自社ブランド製品は持たない。
TSMCTaiwan Semiconductor Manufacturing Companyの略称。ファウンドリ業界の圧倒的シェアNo.1企業。

こうしてみてくると常に最先端微細プロセスを追い求めているのは、コンピューティングやデータに関連する製品ということが言えそうですね。データ量は指数関数的に爆発的に増えています。インテルは最近「データ・セントリック」という言葉を使っています。データを活用するために、より多くのデータをより速くより低消費電力で処理することを追求しなければならない世界なのでしょう。

 

 

そして残ったのは・・・

上で述べたように、微細プロセスの生産には巨額の投資が必要になり、さらに微細プロセスが必須でかつ巨額の投資を回収できる製品も一握りしかありません。その結果、半導体メーカーが次々に微細化競争から脱落していき、あるいは自ら降りていき、微細プロセスの開発レースで生き残っているのは、メモリ以外ではTSMCとサムスンとインテルだけになってしまいました。当社は20年以上前に微細化レースからは降りました。最新のニュースでは、かつては微細化をリードしていたインテルも最先端の微細プロセスで苦戦しており、生産の外部委託も検討していると言われています。

ムーアの法則を実現すべく突き進んできたレースも先頭集団は3社になりましたが、(ムーアの法則の限界を叫ばれながらも)レースが終了したり立ち止まったりする気配はありません。私が現役のエンジニアでプロセス開発をしていたころ「なんで次から次へと新しい微細プロセスの開発をしなければならないのか?みんなで示し合わせていったん休憩したら?」と思ったことがありますが、幸か不幸かそうはなりませんでしたね。

デバイス構造を(詳細は説明しませんが)Fin-FETやGAA構造(Gate All Around)など20年以上前の現役時代の私には想像もできなかった形に変えながら、またウェーハプロセスだけではなくいわゆる後工程技術(パッケージ技術)も使いながら当面このレースは続きそうです。

そういえば、つい最近TSMCが3DIC材料のR&Dのための子会社を日本に設立するというニュースが出ていましたね。投資額は最大で200億円程度なので、年間に1兆円をこえる投資をするTSMCからすればそれほどの大金ではありませんが。

さて、ここまで微細化関連の話をするなかで半導体デバイスやトランジスタという言葉を使いながらその詳細は説明してきませんでしたが、次回はトランジスタについて初心者でも理解できるようできるだけやさしく説明したいと思います。

 

 

補足説明

①EPROM:Erasable Programmable Read Only Memoryの略。書き込みと消去ができるROM。即ち書き換えが(信頼性の上限までは)何回でもできる。書き込みは電気的にできるが消去は紫外線照射が必要。消去も電気的にできるものを頭にElectricallyのEをつけてEEPROMと呼ぶ。フラッシュメモリは動作原理的にはEEPROMであるが、磁気メモリの置換を目指してビットコスト低減のための様々な工夫を凝らしている。消去時はブロックごとに「ぱっと」一括消去されるので、写真のフラッシュをイメージしフラッシュメモリと命名されたとのこと。

②日本では次世代コンピュータの高性能化を目的として官民共同の4年間の国家プロジェクト「超エルエスアイ技術研究組合」が1976年に発足します。ここで言う超LSIとしては当然大容量のDRAM、具体的には1MビットのDRAMが想定されています。1980年代は日本企業がDRAM市場を席巻し1980年代後半には半導体の国別シェアで米国を抜きトップに立ちますが、DRAMで韓国企業に敗れて90年代以降シェアは低下の一途をたどります。

③現在のDRAMの最先端プロセスは10nm台。10nm台の第1世代から順番に1x, 1y, 1zという呼び方をされます。1xが18nm、1yが17nm、1zが16nm程度と思われます。最小寸法が20nmと10nmの間でじわじわ微細化されています。1zの次は1a(1α)、1b(1β)、1γ、1δまで続くという話もあります。第3回でロジックプロセスの場合にプロセス名と実態が乖離しているとお話ししましたが、DRAMの場合はプロセス名と実際の最小寸法は概ね一致しているようです。

 

米国駐在員が感じた日本とアメリカの違い(Part1)
バックアップ電源切換回路が面倒くさいんです。

About Author

吉田 典生
吉田 典生

1981年 (株)リコー入社、リコー半導体事業立ち上げに参画しその後約40年にわたり半導体ビジネスに携わる。 技術者およびマネージャとして半導体前工程の製造技術・装置技術・プロダクト技術、研究所での製造プロセス開発、アジア各国での前工程生産外注立ち上げを経験。 その後シニアマネージャとして半導体後工程も含む生産技術全般、さらに生産管理や購買も含む生産全般のマネジメントを担当。 また業界団体SEMIの主催するセミナーにおいて20年以上にわたりエッチング技術の講師を担当。 日清紡マイクロデバイス(旧リコー電子デバイス)株式会社として分社化した今は、営業戦略全般のアドバイスも行いながら、“会社の歴史の語り部”という役割も担う。

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