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半導体の微細化と半導体デバイス

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ここまで半導体の微細化について説明する中で、半導体デバイスという言葉を繰り返し使ってきましたが、デバイスに関する説明をしていませんでした。今回は半導体デバイスについて少し詳しく説明したいと思います。

※過去の記事はこちら:
  第1回: 半導体の微細化 ムーアの法則とは
  第2回: 半導体の微細化と半導体プロセス
  第3回: 半導体の微細化と国際半導体技術ロードマップ
  第4回: 半導体の微細化と半導体ビジネス
  第5回: 半導体の微細化と半導体ビジネス その2

 

 

 

第6回 半導体の微細化と半導体デバイス
~トランジスタの誕生からCMOSまで 最後に量子力学について~

 

トランジスタの誕生 ~真空管から固体素子へ~

トランジスタを発明したのは米国のベル研究所です。ベル研究所は米国の巨大独占通信会社だったAT&T(アメリカ電話電信会社)傘下の研究所で1925年の創設です。その名前は電話の発明者グラハム・ベルに由来します。当時の電話システムには真空管と呼ばれるデバイスが大量に使われていましたが、大型で消費電力が大きく寿命が短い等の問題があり、電話回線の増大に伴い遅かれ早かれ限界が来ることが予想されていました。

 

ちょうどそのころ、量子力学を基礎にした固体物理学の急速な発展で半導体の素性が明らかになってきていました。ベル研究所では、この半導体を使った固体素子で真空管を置き換えるという明確な目的のもとに研究を進め、第二次世界大戦で一時途切れたものの、1947年12月23日にトランジスタの発明に至りました。

 

トランジスタを発明した3人は1956年にノーベル物理学賞を受賞しています。そのうちの一人のバーディーン博士は、後に超電導理論でも物理学賞を受賞しており、2020年時点でノーベル物理学賞を2度受賞した唯一の人物です。

 

ただし、ここで発明されたトランジスタは現在バイポーラトランジスタと呼ばれているもので、現在の集積回路で主に使われているMOSトランジスタではありませんでした。

 

当時ベル研究所では電界効果型の固体増幅素子(現在の電界効果トランジスタ(FET)のこと、MOSトランジスタはFETの一種)の研究を進めていました。半導体の表面に関する知見や制御する技術がまだ十分ではなく失敗の繰り返しでしたが、ある実験の中で意図せぬ電流増幅現象を発見し、それが今でいうバイポーラトランジスタの発明につながりました。

 

※真空管:真空度の高いガラスや金属の容器内に電極を封入した電子管の総称。二極管・三極管・多極管などがあり、検波・増幅・整流・発振などに用いる。(出典:デジタル大辞泉(小学館)/コトバンク)代表的なものは高さ数cm~10cm程度。

 

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トランジスタとは?

トランジスタが1947年末に発明されたことはお話ししましたが、その時点でトランジスタという言葉はなく、翌年にベル研究所でこの新しいデバイスの名前を募集しトランジスタという名前が選ばれたということです。Transferresistorを組み合わせたものです。

 

では、トランジスタというのはどういう働きをするものなのか?一言で言うと「入力端子に入れる信号(電圧または電流)を変化させることでトランジスタを流れる電流を変化させる(制御する)ことができるデバイス」です。こういう特徴を生かして、アナログ回路では「増幅回路」に使われ、デジタル回路では「スイッチ」として使われます。

 

トランジスタというものを物理学の知識がない人にも直感的に理解してもらうために、よく使われる例えですが、トランジスタを水道に見立てて説明してみます。下の図で水道の蛇口がトランジスタに相当するデバイスになります。つまみのひねり具合(入力信号)で水流(電流)をコントロールすることができます。

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全閉で水を止めた状態をOFFとし全開の状態をONとすればスイッチとみなせます。水圧の取れる水源につないで水流の取れる大きな蛇口を使えば、つまみのひねり具合を指先でちょっと変える(入力信号を少し変化させる)だけで蛇口からの水流(電流)を大きく変化させることができ、これを電気に置き換えれば増幅回路に使えます。

 

 

電界効果トランジスタとバイポーラトランジスタ

電界効果型の固体増幅素子(現在の電界効果トランジスタ)の研究をしていたところ意図しない電流増幅現象を発見し、それが現在バイポーラトランジスタと呼ばれているデバイスの発明につながったとお話ししました。ここで両者について非常に単純化してかつ前節で説明した水道と対比して以下に図で説明しておきます。

※電解効果トランジスタ:英語ではField Effect Transistor 略してFET 正確に言うとここで説明しているのは絶縁ゲート型の電界効果トランジスタ

 

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この単純化した図を見ると両者の外見的な違いは入力電極が絶縁されているか半導体に直接接続されているかの違いだけとも言えます。電界効果トランジスタの研究中にバイポーラトランジスタができてしまったわけですから似ていて当然かもしれません。

 

実際にMOS電界効果トランジスタの集積回路を作ると自然にバイポーラトランジスタもできてしまいます。それを寄生バイポーラトランジスタと呼んでいます。これを実際の回路に使う場合もあります。一例が基準電圧源であるバンドギャップリファレンス回路です。また意図せずして寄生バイポーラトランジスタが起動して悪さをしてしまうことがあり、その一例がCMOSのラッチアップ現象で場合によっては破壊に至ることもあります。

 

MOSトランジスタとは?

電界効果トランジスタの入力信号を与えるゲート電極部がMOS構造をしているものをMOSトランジスタと言います。MOSMetal Oxide Semiconductorのそれぞれの頭文字を取ったものです。Siの結晶(semiconductor)の表面に薄い酸化膜(oxide)を形成してその上にゲート電極となる金属(metal)をのせた構造のことです。

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初期のゲート電極は金属でしたがその後N型あるいはP型の多結晶Siがゲート電極として使われるようになりました。正確にいうと金属ではないのでMOSはおかしいのですが、それもMOSと呼んでいます。

 

MOSにはプラス(positive)の電荷(正孔)が電気を運ぶPチャネル型とマイナス(negative)の電荷(電子)が電気を運ぶNチャネル型があり、それぞれPMOS、NMOSと略して書くことが多いです。

 

MOSトランジスタが実用化されるには1947年のトランジスタ発明からさらに10年以上を要しました。Si表面の制御技術の未成熟が理由ですが、技術が確立し本格的に実用化されるのは1960年代になってからです。最初の発表は1960年のベル研究所の研究者による学会発表で同年に特許も出願されますが、本格的な実用化は1960年代中頃のようです。第4回で説明しましたが、電卓にMOS集積回路 が採用されたのは1967年ですので、実用化されて間もない技術を採用したことになります。

 

電卓に最初に使われたのはPMOSのICでした。高速動作にはNMOSの方が向いているのですが当時の技術では難しく最初はPMOSが使われました。その後技術が成熟してNMOSが主流になりました。また今では当たり前のイオン注入装置が実用化されるのは1970年代のことです。

 

CMOSとは?

ところで、MOSの説明の中にCMOSという言葉が出てきませんでしたね。実はCMOSトランジスタというトランジスタがあるわけではありません。かつてCチャネルMOSと言った新人がいたのを思い出しましたが、CMOSCCチャネル型のCではなくComplementary(相補的)のCです。下図(インバーター回路)のようにPMOSNMOSを相補的に組み合わせて回路を作っているものをCMOSと言います。

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CMOSは1963年の固体素子の回路に関する国際学会で発表され特許化もされました。ただし、NMOSPMOSで構成されるためどうしてもプロセスが複雑で回路面積も大きくなってしまい、CMOSが普及するにはさらに10年以上の年月がかかりました。

 

説明は省略しますがCMOSの大きなメリットは低消費電力ですので、まず低消費電力が必須の電子式腕時計や小型電卓に採用されました。電卓にCMOS LSIが採用されたのは1972年です。電池駆動にするにはCMOS化が必須だったようです。私の記憶では(少なくとも当社では)1980年代はNMOSCMOSが混在していたと思いますが、1990年代にはCMOSが普通になっていたと思います。

 

量子力学について

最後に量子力学について、少し触れておこうと思います。
トランジスタの発明は、1925年から1926年に完成した量子力学とそれをベースにした半導体物理学の発展なくしてはありえませんでした。すなわち量子力学なくしてPCもスマホもインターネットもなく今のデジタル社会は実現していません。

 

量子力学を確立した科学者たちは実利的なことを考えていたわけではなく、純粋に真理の探究のために研究をしていたと思いますが、それが結局は大きな社会変革につながったのだと思います。いわゆる基礎研究というやつです。目先の実利的なことだけを考えて研究をしていたらこのような大きな成果は出ません。宇宙を支配する根本的な法則が理解できたからこその成果です。

 

量子力学は相対性理論とともに物理学における20世紀の2大業績(2大革命)です。どちらも20世紀の初頭に理論が構築されました。相対性理論はアインシュタインという一人の天才が作り上げたものですが、量子力学は20世紀初頭に多数の特に若い天才物理学者たちによって構築されたもので、電子や光(光子)などこの世界を構成するミクロの構成要素(量子)の振る舞いを記述する理論です。

 

関係した物理学者の名前を挙げると、プランク、ゾンマーフェルト、ボーア、ボルン、シュレーディンガー、パウリ、ハイゼンベルク、ディラック、フェルミ等々ですが、パウリ、ハイゼンベルク、ディラック、フェルミは量子力学が構築された当時は20代半ばでした。ここに名前を挙げたゾンマーフェルト以外の科学者は全てノーベル賞を受賞しています。ゾンマーフェルト本人はノーベル賞を受賞していませんが、パウリ、ハイゼンベルクを含めて4人の教え子がノーベル賞を受賞しています。

 

量子力学について詳しくは説明できませんが、例えば電子は粒子であるが波の性質も持っている、光は電磁波という波であるが粒子の性質も持っている(光子と呼ぶ)、粒子の位置と運動量を共に正確に決定することができないという不確定性原理など常識では考えられない面白い不思議なことが沢山あります。自然界はアナログですとか連続量であるとかよく言われていますが、実は量子力学によれば例えばエネルギーには最小単位がありデジタルなんです。ただし最小単位は非常に小さいので連続と思ってよいのですが。。。。

 

以上今回は半導体デバイスについて簡単に説明し、最後に半導体デバイスを遡ればここに行き着くという量子力学についても簡単に紹介しました。次回は半導体の微細化のお話の最後にデナードのスケーリング則という理論的なお話などをしたいと思います。

 

バックアップ電源切換回路が面倒くさいんです。
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About Author

吉田 典生
吉田 典生

1981年 (株)リコー入社、リコー半導体事業立ち上げに参画しその後約40年にわたり半導体ビジネスに携わる。 技術者およびマネージャとして半導体前工程の製造技術・装置技術・プロダクト技術、研究所での製造プロセス開発、アジア各国での前工程生産外注立ち上げを経験。 その後シニアマネージャとして半導体後工程も含む生産技術全般、さらに生産管理や購買も含む生産全般のマネジメントを担当。 また業界団体SEMIの主催するセミナーにおいて20年以上にわたりエッチング技術の講師を担当。 日清紡マイクロデバイス(旧リコー電子デバイス)株式会社として分社化した今は、営業戦略全般のアドバイスも行いながら、“会社の歴史の語り部”という役割も担う。

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